第45話 なぜか裏街へ

 おじいさんのメモにある通りに服屋さんへ向かおうと歩き出す。先ほどまでフィンちゃんに乗っていたから快適だったけれども、久しぶりに自分の足で歩くとちょっと辛いものがあるかもな……。とりあえず、フィンちゃんは自分の足で歩いてもらおう。

 手に抱えていたフィンちゃんを降ろすと、少しだけ軽くなった。


 先を歩きだした少年についていくように、フィンちゃんもグランちゃんも一緒に歩き出す。最初の目的地は分かったことだし、街の中は安全だろうからのんびり向かえば良いよね。荷物も重いし、私はこれ以上の速度は出ないもん……。


 少年のある気が少し早かったので、手を取った。そして、ぐっと引っ張っぱる。すると少年は、びっくりしたようにこちらを向いた。安全な街でいきなり手を引かれたら、そりゃあそういう顔になるよね。



「もうちょっと、ゆっくり歩こう? 荷物がやっぱり重いわけです」


「そ、そうか。ごめんなさい。ちょっと僕、綺麗な街並みに、気分が高ぶってたのかも。気を付けるよ」



「うんうん。そうしましょ。一緒にゆっくり歩こう?」


 少年がいつ早歩きするかわからないから、一応手を掴んでおかないとと思って、あらためて強めに手を握った。少年はまだ若いから、せっかちなところがあるからね。ちゃんと押さえておいてあげないと。



「う、うん。そうだね。一緒にあるこうね……」


 少年の顔は、なんだか赤くなっているようだった。俊敏に動いても、息も上がらなかったような子なのに、なんだか体調でも崩しちゃったのかな?私が頼りすぎちゃったのかな?

 そうだよね、ずっと少年に頼りっぱなしっていうわけにもいかないし。よし、ここはひとつ、私が少年を導いてあげましょう!



「大丈夫だよ、少年。私がリードしてあげるからさ。安心してお姉さんについてきなさい!」


「……うん」


 小さく細い声で少年は返事をした。そして、その後にはうつむいてしまった。これはやっぱり体調が良くないんだな。服屋に行くついでに、なにか美味しい食べ物か飲み物でも食べると良いのかもな。お店を見つけ次第入ってみようかな。


 うつむいてしまった少年は歩<スピードも遅くなったり、実質的にも私がリードして歩いていくことになった。やっぱり最年長者が誘導してあげるのが良いよね。


 私が先に歩いて、少年を引っ張ってあげる。グランちゃんもフィンちゃんも嬉しそうに、着いてきてくれる。ふふー、これが年長者特権っていうやつですね。

 だけどな、その考え方は、先輩に通じるものがあってちょっと考え直さなきゃいけないかもしれないんだよね。


 よく先輩は、「先輩は、絶対に立てておいた方がよいよ」って言ってたんだよね。先輩が失敗したとしても、私がよいしょしてあげてたんだよね。「先輩は、とっても素晴らしい人です」とか「先輩なら、絶対できますよ!」とか言って励ましてたなぁ。

 そうしたら、その次はちゃんとうまくいったりしてね。私の応援も役に立ちましたねって言って、二人で笑い合ってたなぁ……。懐かしいなぁ……。早く、神界に戻れたらいいのにな……。


 なんだか思い出にふけりながら道を進んでいった。少年がこっちの方向に進みたがっていたから、多分こっちなんだろうと思って、道の通り真っすぐ進んでいたんだけれども。なんだか、綺麗な街並みが少し変わってきたようで、少しくらい路地に入ってしまったらしい。

 いかんいかん。先頭を進んでいる私がちゃんと前を見ないといけないよね。なんだか良くわからない場所に来ているけれども、ここは、どこだろう……?



「ちょっと、こっちじゃないかもな……? ねぇ少年。ここどこか、わかる?」


「……わ、わからないです。僕は、お姉さんの後をついていきます」


 少年はうつむいたまま答えてくる。どうしちゃったんだろう? 私が先に行きたいって言ったから、調子が狂っちゃったのかな? さっそく私は若い芽を摘んでしまったのかな?


 この街に着いた時は、あれだけやる気にみなぎって早歩きしていたっていうのにな……。困ったぞ……。



「ちょっと聞いてみるけれども、グランちゃんとフィンちゃんってここがどこだかわかる?」


「ぐるるー?」

「がるるー?」


 可愛く首をひねる二匹。ちょうど一緒のタイミングでひねって、すごく可愛かった。もう一回聞いて、同じ動きを見たいくらい……。


 ……って、そういう場合じゃないね!

 これどうしよう!


 誰も、わかるわけが無い場所だけれども……。街の入り口辺りとは、歩いている人の種類が違うということは分かった。髪型や、着ている衣服からして、まっとうな仕事をしていないのだろうと思われる人が目に入る。

 女の人は、なんだかセクシーな恰好をして、お店の前に立っているし。男の人は、首を傾けながらふらふらと歩いて、通行人たちに威嚇しながら話しかけている。


 この状況ってもしかして、ちょっとピンチな状況なのではないでしょうか……。

 モンスターはいなくとも、人間の脅威というものは、とっても怖いわけで……。女神時代にも、そんな体験をしたことがありまして……。


 前方にいる、危なそうな目つきの人と、目が合った気がした。多分、ニコって笑った……。

 ……私、今とっても、大ピンチだと思います。

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