第44話 最初に目指す場所は?
少年の機転によって、門を通ることができた。
少年って、すごく頭が回るんだね。顔立ちもいいし、やっぱりどこか良い家系の出身なのかもしれない。少年の顔を眺めていると、不意にこちらを向いてきたので、笑ってごまかしておいた。
私たちが門を通るとき、門番は不審そうな目をこちらに向けてきた。前に並んでたい人や、後ろに並んでいた人からもじろじろと、不思議なものを見るような目で見られていた。大きいモンスターがいきなり小さくなるっていうのは、やっぱり普通じゃないんだろうな。ははは、今度からちょっと控えよう……。
門を抜けると、綺麗に整った街並みが目に飛び込んで来る。右を向いても、左を向いても、同じような形に揃えられた建物がいっぱい並んでいた。その中でも、家の前には自分の家だと分かる目的なのか、色とりどりの表札がついているようだった。
建物と建物の間には、石畳が敷き詰められた道が続いている。緩やかなカーブを描いて伸びているようで先の方が見えなかった。この街自体が円形をしているのだろう。しっかりと設計されたような綺麗な街並みだ。
道には人通りも多く、活気のある街のように感じられた。
「ここって、すごく大きな街だね」
「確かに、こんなに大きい街だと、なんだか緊張しちゃいますね。僕、そんなにおめかししてないし。こんな格好で大丈夫なのかな……?」
「少年は、顔が整っているから、なにを着ていても他の人に見劣りすることは無いよ。大丈夫!」
少年は少し照れた顔をして、頭をかいていた。意外と、おませさんなのかもしれないな。今度からもう少し大人扱いでもしてあげた方がいいのかもな。ふふ。
少年を励まそうと思ってそう言ってみたけれども。今度は、自分の格好が気になってきちゃうな。私こそ、こんな格好で大丈夫なのかしら。もっと良い服でも着ていたら、もう少し胸を張って歩けるんだけどな……。
「……そうか。だからおばあさんは、私に綺麗な服をくれたのかも! 確かに、こんな綺麗な街中だ、みすぼらしい恰好していると笑われてしまいそうで怖いね。私もどこかで、着替えたいな……」
「ぐるる、ぐるる!」
「がるるるるる!」
グランちゃんと、フィンちゃんは必死に首を振っていた。なにか言いたげだけれども、私にはあまりわからないや。可愛いから、二匹とも撫でておこう。よしよし。
私たちが街の入り口付近でもたついていると、馬を連れた商人らしき人たちは、真っすぐ前を目指しているようだった。前方の道を見ると、少し開け放たれた空間があるように見える。そこからにぎやかな声が聞こえてくる。おそらく、円形の街の中心が広場になっているのだろう。そっちに行けば、なにか面白そうな気もするな。
けど、この街を歩くんだったら、服も着替えたいな。どうしたら良いかな。うーん……。
少年は、私と同じくウキウキした顔をしていたが、何かを思い出したように真剣な顔になった。
「そうだ、お姉ちゃん! おじいさんからもらったメモを見ようよ! 確か街に着いたら行くところを書いてあったと思うんだ」
「なるほど、なるほど。少年は、しっかりしているよね。やっぱり、最初の目的をちゃんと意識しないとだよね。メモは、確か少年が持っていたんだっけ?」
少年は、少し恥ずかしそうに頭をかいていた。頭を書くっていう動作は、もしかすると少年の癖なのかもしれないな。頭をかくことで、サラサラの髪の毛が揺れて、なんだか色気が漂うな気がする。
「あぁ、僕が持ってたっけ……。ごめんなさい、忘れてたや……」
少年はカバンを降ろすと、中を開いた。宿で整理し直していたけれども、少年って几帳面でもあるんだよね。綺麗に整理整頓されたカバンの中から、ひょいと、おじいさんからもらったメモを取り出して、開いた。
「えーっと、メモになにが書いてあるかっていうとね……。街に着いたら、まずは服屋さんへ行くといいと書いてますね? なんでだろう……?」
「ほぇ……? そこに重要な人物がいるのかな? おじいさんの教え子とかがいるのかもしれないね。宿屋の主人みたいな人が、この街にいても不思議じゃないもんね」
少年は、真面目な顔つきでメモを見つめている。目を上へ下へと動かして、何回も何回も読み込んでいるようだった。そんなに大事なことが書いてあるっていうことなのかな?
納得いかない顔のまま、少年は口を開いた。
「えーっとね。おじいさんのメモによると、『まずは街に着いたらオシャレをするといい』って書いてます……。『やっぱり街と言ったら、オシャレをして歩きたくなるもんじゃろ? ばあさんも若いころは、切れに着飾って追ってのお』、だそうです。その続きも、もっと書いてあるけど、中身が無いんで省略しますね……」
「ふ、ふーん……? おじいさんとおばあさんって、いつも思うけれども、なんだかマイペースだよね。本当にすごい先生だったのかな……? って疑っても仕方ないし、書いてある通り服屋さんに行こうか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます