第43話 街に入るのも一苦労

 グランドベアーと、ホワイトウルフの巨体が光に包まれた。徳の玉の力で、二匹のパラメーターの吸い取りが始まった。私のポケットも一緒になって光っている。

 この二匹は、一度パラメーター操作済みだから、今回はすぐ終わるはず。そう思って、ゆったりした気分で眺めていたら、後ろの方から声が聞こえて来た。


「な、なんだっ!?」

「この光は、どうしたんだ!」

「そこにいたホワイトウルフが、急に光り出したぞ……!」

「グランドベアーも一緒に光ってるたぞ!」

「どうなってるんだ? 大丈夫なのか……?」



 街に入ろうとして、私の後ろに並んでいる人たちが慌てて取り乱していた。せっかく並んだ列を飛び出す人もいたり、すぐに逃げようと馬に跨ろうとしている人もいた。腰を抜かして尻もちをついている人もいた。


 門番も慌てているようだった。兜から出していた顔をしまい込んで、持っていた槍を身構えた。一歩下がって間合いを取って二匹目掛けて、槍を向けて集中しているようだった。


 がっしりとした壁に囲まれているからか、モンスターというのもほとんど来ないのであろう。それなのに、こんなに大きいモンスターが突然見たこともない状況になったら、それは慌ててしまうのかもしれないか……。


 ちゃんと付き合ってみれば、可愛い子たちなのに。なんていうことも、分からない訳だよね……。はは……。

 もしかして、モンスター自体見たこと無い人が多かったりするのかな?


 この世界のことをあまり知らないけれども、モンスター自体そんなに見たこと無いし……。

 うーん。そうだとしたら、案外、この街の門番の仕事っていうのも、暇なのかもしれないよね。ということは、平和な街だっていうことができるかもしれないね。平和そうな街って、私好きかもなー……。



 ――ティロリン。

 ――現実から目を背けたような考えは控えてください。


「あ、はい。ごめんなさい。この状況は待つしかないかなって思ってね……」


 徳の玉は、「私は働いているのよ!」と言いたげにピカピカと光を放ってくる。そんな怒られちゃってもねぇ……。どうしようもないもん……。


 ――のんびりとしているところ申し訳無いのですが、そろそろパラメーターの吸い取りが完了しそうです。


「はい。ありがとうございます。私は待つことしかできないものでして……」



 ポケットに入っている徳の玉さんのことをねぎらう意味で、撫でてあげた。もし、先輩がこんな風に怒っていたら、差し入れにお菓子を持ってきてあげると、機嫌が直るんだよね……。一応、女神様だから、お供え物に目が無いっていうことかな……?


 どうしようもない事態をやり過ごすために、昔のことを思い出していたら、門番の人が覚悟を決めたように呻き始めた。


「ううぅぅーーー……。これは、緊急事態だな。やむを得ない、我らが壁にならねばなるまい……。この街にモンスターは通さないぞ……」


「あ、あの、えっと……。もう少しだけ待っててもらっても良いですか……?」



 門番に、私の声は届いていないようだった。やっぱり諦めて待つしかないかと思っていると、光がおさまってきた。そこに現れたのは、小さいフォルムのグランちゃんと、フィンちゃんだ。


「ぐるるーーー!」

「がるるーーー!」


 いつも通りの、小さい姿。モフモフしたぬいぐるみみたいな姿をしている。グランちゃんは、小さいフォルムでも二足歩行できるので立った状態。フィンちゃんは、礼儀正しくお座りをした状態となっていた。


 光が収まると、騒然としていた人々の動きが止まった。


「えっ……?」

「あの二匹のモンスターはどうなったんだ……?」

「まさかとは思うが、その小さい生物が、あの二匹のモンスターなのか……?」


 周りの人々は、小さい姿を見ると、またザワザワとしだした。興味本位でじろじろと覗き見てくる人もいる。やっぱり、大きい状態だと怖いっていうことだよね。今度から、街に入る時は気をつけようっと……。


 門番は出した槍の行き場に困って、固まってしまっているようだった。いきなり標的が消えたんだもんね。そりゃあ、びっくりするよね。



「ど、どういうことだ……? 命を懸けて街を守るしかないと思ったのだが、消えてしまった……?」


「あ、はい……。いきなりのことで申し訳なかったんですが、この二匹は小さくなれるんです」



「はぁ……?」


 私は本当のことしか言っていないのだけれども……。パラメーターを吸いとれるとか、そういった概念が無いと、理解が難しいよね……。どう言ったものかな……。

 言葉に詰まっていると、少年が私の前に出て説明を始めてくれた。



「この二匹は、小さいフォルムがデフォルトなんだ。こっちのお姉さんはモンスターテイマー。テイムしたモンスターを強化して連れ歩いていたってわけ」


 少年はアドリブで説明をしてくれたようだったが、門番は納得したようだった。兜から顔を出すと、安心した表情をしていた。



「なるほどな。そういうことなら、先に言ってくれれば良いのに。周りも全員驚いていたぞ」


「そうしたら、おじさんたち。僕とお姉さんと、この小さいヤツ二匹は通っていいかな?」



「あぁ、大丈夫だ。問題ない。ただし、街中でその二匹を、戦闘モードのような大きいフォルムにすることは禁止だぞ?」


「あい! わかりましたっ!」


 少年はそう返事をすると、こちらにウィンクしてきた。

 ナイス少年。これで、無事に街に入れそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る