第41話 ライドオン
――ティロン。
――それでは、パラメーターの付与を開始します。
徳の玉が光り出す。パラメーターを戻す対象となるグランちゃんと、フィンちゃんも輝きだした。
――ティロン。
――グランちゃん、フィンちゃんの体格のパラメーターを元に戻しました。
――ティロン。
――グランちゃん、フィンちゃんの攻撃力、防御力、素早さのパラメータを元に戻しました。
私だけに聞こえるアナウンスをしながら、徳の玉はパラメーターを戻していった。
光に包まれたホワイトウルフのシルエットが、段々と大きくなっていく。両腕の中に収まるくらいの大きさだったの身体は、元の4、5メートルはあるだろう巨体へと膨らんでいった。
グランちゃんについても同じだ。徳の玉の光に合わせて、どんどんと身体が大きくなっていった。最初出会ったときも、大きさに驚いたけれども、あらためて見るとやっぱり大きい身体をしている。
「えぇーーーっ! なんでだーーっ! 二匹とも、いきなり大きくなっちゃったよ! これまずいんじゃないんですか?!」
「ははは、驚きすぎだよ、少年。大丈夫、大丈夫。元の大きさに戻っただけだよ?」
「それが、まずいって言ってるんですよーーっ!!」
少年は、二匹のモンス夕ーから攻撃されるのではないかと、身構えているようだった。自分自身も怖いだろうけれども、私の前に立って二匹から私を守ってくれるようにして、ガードする体制をとっている。どうやって攻めてきても、どうにか対処できるようにと、腕の隙間から二匹を覗き見ている。けれども、一向に襲い掛かってこない不思議がっていた。
「あれ……? 何もしてこないのか……? そうだとしたら、今のうちに逃げないと!」
「ふふ。少年、大丈夫、大丈夫」
この状況って、やっぱりびっくりしちゃうか……。少年には、どうやって説明したものかな? 少年から、疑う心とか、そういうパラメーターを吸い取ってもらった方が良いのかな? けど、それは最終手段か……。ははは……。
「この子たちは、大きさが変わっても味方だから大丈夫だよ。移動するのに便利だと思って元に戻ってもらったの。だから、この子たちに乗って、街まで一気に行っちゃおう!」
「えっ……。うん……。お姉ちゃんって、そんなことができるの……? もしかして、お姉ちゃんってモンスターテイマーのスキルを持ってたの?」
「うーん。まあ、ちょっと違うけれども……? とりあえず、みんな仲良しのお友達って言うことだよ!」
「……し、知らなかったよ。ちょっと尊敬しちゃうかも」
少年の考えは、悪い方向にはいってないみたいだから、いいか……。今度、少年が納得できる言い訳を考えなきゃだね……。
私たちが会話している間に、すっかり大きくなった二匹はこちらを向いていた。グランちゃんとフェイちゃんは私たちを背中に乗せるべく、低い姿勢をとっていた。グランちゃんは少年の方を向いて、フェイちゃんは私の方を向いている。二人で役割でも決めてたのかな?
「じゃあ、少年はグランちゃんに乗ってね! 私はフェイちゃんに乗るから。とりあえず、この子たちがそう決めたっぽいから、そうしようか」
「は、はい! わかりました!」
フィンちゃんは、極力小さい体制になって『伏せ』のポーズをしていてくれる。けれども、それでもすごく大きい。私は、ふわふわな毛を掴ませてもらって、ちょっとした山登りのようにしてフィンちゃんの背中へと登っていく。
少年は、昨日まで荷物を持ってひょいひょいと走り回っていたように、グランちゃんの背中にもひょいひょいと登ってしまった。少年のパラメー夕ー羨ましいな。
フィンちゃんは、私が背中に乗ったのを確かめると、伏せの状態から起き上がった。四本足で立ち上がると、私の視界は一気に4、5メートルの高台の上にいるように高くなった。
「すごーい、やっぱり大きいねフィンちゃんは! それで、走るのも早いわけだし。一気に街まで着いちゃうね!」
「こっちのグランちゃんもですよ! すごい大きい! 一歩踏み出すだけで、かなりの歩幅ですよ」
「グルルルルー!」
「ガルルルー!」
二匹とも声を揃えて、鳴き声を上げた。私たちの話がちゃんと伝わっているようで、褒められたのもわかったらしい。とても喜んでいるようだった。表情も豊かだから、言葉をしゃべれなくても私たちに感情が伝わってきた。
「それじゃあ、しゅっぱーーつ! レッツゴーーー!」
フィンちゃんは私のことを気遣ってか、なるべく体制を揺らさないようにしながら、ゆっくりとスピードを上げていった。人間を乗せ慣れていないと思うのに、ちゃんと考えてくれているようだった。
グランちゃんもその後ろをついてくるが、フィンちゃんと同じように乗っている人のことを考えて、徐々にスピードを上げていた。
スピードが段々と早くなるけど、怖さは無かった。フィンちゃんのモフモフの背中の毛に包まれているような感覚。快適すぎてふわふわのベッドの中にでもいるような感じで、街道沿いを駆け抜けていった。
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