第40話 街へ出発

 宿を出発すべく身支度を揃えている間、宿の人たちは準備があると一旦部屋を後にした。その間に少年も起きたので、事の成り行きを説明した。そうしたら、寝起きなのに、すごい驚いていたリアクションをしてくれていた。

 少年と一緒に準備を済ませると、すぐに部屋を後にした。


 宿を出ようとして、中庭を通って門のところまで行く。昨晩ホワイトウルフが走り回ったようなところは、低木が折れてしまっているようだった。かなり暴れ回っていたもんね。

 少年も起きたので、グランちゃんには乗らずに歩いて門へと向かう。少年は中庭の様子をきょろきょろ見渡して、昨日のホワイトウルフの様子をしみじみと感じているようだった。



「昨日は、相当大変だったんですね……。僕は寝てしまっていたようで、ごめんなさい」


「大丈夫ですよ! 全部丸く収まったので! ふふ」



 少年が寝てたおかげで、徳の玉を使うのも気にせずできたし、結果オーライだったんだよね。……少年には言えないけれども。


 背中から少年を降ろしたグランちゃんは、代わりに私の荷物を持ってくれていた。昨日、ホワイトウルフのフィンちゃんにカバンを噛み千切られちゃったけれども、宿の人が代わりとなるカバンをくれた。元のカバンよりも丈夫そうな素材でできていて、例えホワイトウルフでも今度は噛み千切れないような素材だ。


 肝心の中身についても、宿のメイドさんがすべて回収してくれていた。おばあさんの衣服は全て無事だった。地面について汚れてしまったようなものについては、メイドさんたちが手分けして洗ってくれて、すぐに乾かしてくれたようだった。元々のおばあさんの匂いが残っているものもあるが、洗い立て石鹸の匂いがするモノもあって、清々しい。


 門まで着くと、宿の人が勢ぞろいして並んでいた。これは、いつもやっていることなのかな? すごく礼儀正しいというか、ちょっと感動するくらい綺麗に揃っていた。宿の主人が一歩前に出て代表で私に話しかけてくる。



「昨晩は、ホワイトウルフ、フィンがご迷惑をおかけしました!」


 主人は、深々と頭を下げた。並んでいたメイドさんも、主人と同じように一斉に頭を下げた。そこまでのこととは思っていなかったけれども、誠心誠意の謝罪を表しているというのが伝わってきた。私が何か言わないと、ずっと頭を下げ続けていそうであった。



「……み、みなさん頭を上げてください。結果的に、私はなにも被害が無かったわけなので、気にしていないですよ」


「いえ、こういうことには、けじめが必要なので、精神誠意の気持ちでございます」


 主人は、こういうところがしっかりしているのだろう。こんな大きな宿を経営するくらいだもの、やっぱりかなりの人格者ということが伝わってくる。こういう時に、私はどう答えたらいいかがわからないけれども。どうしようかな……。とりあえず、私からもお礼を言うことにした。



「私の方こそ、こんな良い宿に泊まらせてもらって。荷物もすべて無事に集めてくれましたし。良い子との出会いもありましたし。こちらこそ、なにからなにまで、お世話になりました」


「ありがとうございます。昨日のフィンのこともありますし、私たちの宿のサービスがまだまだということを痛感しました。そんなところに気づかせてくれたこと、我々も感謝しております」



「そ、そんな大それたことは、していないんですけれども……。はは……」


「また、今度訪れていただけたときには、もっともっと良いサービスを提供できるように精進してまいります。またのお越しをお待ちしております」


 主人がまた頭を下げると、並んでいたメイドさんも一斉に頭を下げた。私は、そんな大層なことしていないって言ってるのに……。うぅ……。



 ――ティロリン。

 ――宿の主人の商売心に火をつけました。

 ――徳ポイントが溜まります。


「……へっ? なんで溜まるの? 何もしていないって言ってるのにー!」



 宿の主人は頭を上げると、私の手の中にいるフィンの方へと寄ってきて、頭を撫でた。フィンも満足そうにしてモフモフと撫でられているようだった。これで、しばらくのお別れだもんね。


「フィン、元気でなー! 帰り道には、また寄ってくれよー!」


「がるるー!」



 私と少年は、主人とフィンちゃんの別れを見届けた。

 十分別れが済んだあと、私たちは宿を出発した。



 ◇



 宿をあとにして、草原を歩き始める。夜は周りが見えなかったけれども、昼間だと良く見える。宿からは、街へと続く街道があるようで、その道をたどっていくことにした。


 草原の中にそこだけ草が生えていないような道。馬車なども通れるように、草もあらかた無くしていて、平らに整備されている。森の中と違ってかなり歩きやすい。これであれば、今日中には街に着けるだろう。


 私の荷物はグランちゃんが持ってくれているから、今日も軽快に歩くことができる。ただ、手の中にはフィンちゃんがいて、それがちょっと重く感じてきた。



「……徳の玉さん、ちょっと聞きたいんですけれども、フィンちゃんを少し大きく戻すことって言うのもできたりしない? 私が持たないで、自分で歩いてくれると助かるなーなんて……」


 ――はい、可能です。

 ――グランちゃんと同じく、どの大きさにも調整できます。



「良かった! そうしたら、大きくしてもらおうかな!」


 ――それであれば、グランちゃんも含めて、元の大きさに戻すことをお勧めします。

 ――そうすることで、背中に乗って移動することができるかと思います。

 ――移動手段として、最適かと思われます。


「なるほど! それであれば、二匹とも大きくしちゃって、一気に街まで走っていこうか!」

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