第39話 フィンと一緒に
私の手の中にホワイトウルフがいる。そして、足元には小さいクマのグランちゃんもいる。二匹でモフモフと私にすり寄ってきているのだ。朝から、なんと天国なのでしょうと、私は満喫中。
「がるるー!」
「ぐるるー!」
ホワイトウルフを探していたメイドさんは、どうにかして連れて帰ろうと、モフモフした毛に触れるのだか、ホワイトウルフはペイッと手を払いのけていた。払いのけると、私の方を向いてニコニコとしている。
「ダメですってば。君の部屋はここじゃないでしょ。その人は、お客様なんだからーー!」
「だ、大丈夫ですよ。この子可愛いですし、もうこの姿であれば、害も無いですし。モフモフを堪能しておきますよー……」
……と言っても、そんなに長居している場合じゃないのだけれどもね。目的の無い旅ならまったりできるけれども。私は早く徳を集めないと、世界を崩壊させてしまうかもしれない危機を背負っているんです。
どうも埒が明かないと思っていると、宿の主人が部屋までやってきた。私たちに一礼をして、真剣な顔で私たちを見つめてきた。
「おはようございます。昨晩は、よく眠れましたか?」
「は、はい。おかげさまで。ホワイトウルフちゃんの騒動が終わったら、すぐに寝ちゃいました」
「それなら良かったです」
私の答えを聞くと、主人は安心したような顔をした。主人の方はというと、あまり寝れていないのか目の下にクマがあるようだった。相当、ホワイトウルフちゃんに悩まされていたのかな……?
心配になって、主人の顔を覗き込んでいると、主人は決心したような顔をこちらに向けてきた。
「その子は、あなたのことをすごく気に入っているようなのです。どうか、あなたの旅に連れて行ってやってはくれないでしょうか?」
「……ほぇ?」
いきなりの申し出に変な声でしか返せなかった。ただ、宿の主人は冗談を言うような状況でないのも分かっていた。一晩寝ずに考えて出した答えなのだろう。
そんな決心をされたとあれば、断れるだけの理由を、私は持っていないし……。
「この子は、もともとは、あなたを助けてくれたという、おじいさんとおばあさんのところにいたヤツなんだ」
「えぇぇー。それは初耳です。森でおじいさんたちを守ってくれていたのかしら……?」
「そうなんです。番犬として、どこでも主人を守ってくれるような子でした」
「そうだとしたら、ここの宿を守り続けていかなくて良いんですか……? 私のところに来ちゃったらこの宿が……」
「それは、大丈夫です。もうすっかり、この宿も利益を上げられるようになってますし、新しく用心棒を雇おうと思います。この子は、より必要としている人のところに行きたがるみたいなんです」
「そうなのですか? この宿のこと大丈夫なのかなって、ちょっと不安が残るところはないですか……?」
「はは、心配ご無用ですよ。この子は、それが分かっている。だからこそ、今はあなたを助けようとしている」
主人は、優しい瞳でホワイトウルフを見つめていた。ホワイトウルフの方も、名残惜しいような寂しい表情を浮かべたけれども、きっぱりと決心したように、こちらを向いた。
そんな決心を向けられたら、私も受け入れるしかないかもしれない。長年付き添った場所を離れるって言うのは、大きな決断。それは、簡単にできることじゃないし。一度決めたら、その気持ちを揺らしちゃいけない気がする。
私が今すべきことは、この子の気持ちを一心に受け止めてあげよう。
「わかりました。私と一緒に行こうか、ホワイトウルフちゃん!」
ホワイトウルフは、凛々しい顔をして、こくこくと頷いていた。
その姿を見て、主人は少し寂しそうな表情をしていた。長年一緒にいたんだもん、悲しいはずだよね。私はその決心を無駄にしないように、この子を連れて一緒に楽しい旅をしよう。
主人の方を見ていると、今にも泣きだしそうな顔をしているようだった。ホワイトウルフちゃんってば、主人の気持ちも考えてあげなきゃだよー……。
決心が揺らがないように、この場を早めに後にした方が良いかもしれないな。
「それでは、私たちは街の方へと進んでいこうと思います。ホワイトウルフちゃん、大事にしますね!」
腕の中にいるモフモフを撫でながら、答えると主人は満足そうに頷いてくれた。そして、何かを思い出したかのように口を開いた。
「そうそう、その子の名前は『フィン』って言うんだ。名前を呼んで可愛がってやってくれ。小さい姿を見ると、昔を思い出すようだよ、フィン……」
「がるるー!」
フィンと呼ばれた子犬は、主人に別れの挨拶をしているようだった。しんみりしないように、明るく元気に。
私も、二人の気持ちにしっかり答えましょう。私はフィンを抱きしめている手を緩めて、フィンと向き合うように抱きしめ直す。
「あなた、フィンっていうんだね! これからよろしくね! ピンチの時には、私を守ってね、フィン!」
「がるるーー!!」
元気の良い声が、部屋の中に響いた。その声に答えるように、私もフィンをぎゅっと強く抱きしめた。
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