第38話 一夜明けてもふもふ
昨日の大事件から一夜明けた。
ホワイトウルフと戦うというのか、能力を奪い取って無力化するっていう。女神時代の研修でも体験できないようなことを、昨日はしてきたんです。しんどかったー……。
そのトラブルの張本人のホワイトウルフちゃんは、宿の主人に預けた。能力を奪ったことで小さくなったからでは、もう暴れることもできないし。逆に一匹でいることの方が危ないと判断して、主人に引きとってもらったの。
それで一息ついて、私は部屋に戻ってきたんだ。部屋に着いたら、案の定みんなは寝ていた。みんなの安らかな寝顔を見て、トラブルが終わったんだなって安心しちゃってね。
私も一瞬で眠りについたんだっけ。もう、いろんなことは明日に回そうって思って。けど、徳の玉だけは、絶対に無くすわけにはいかないからって、文字通り肌身離さずにいようって言うことで、服の中に隠し持って寝たの。
それが昨日のホワイトウルフちゃん騒動が終わった後のことだった。
起き上がると、なんだか身体も軽いし、とても爽快な気分であった、一仕事終えたって言う感じ。難解なトラブルを解決するっていうのも、たまには良いかもだね。
昨日の反省は色々あるけれども、気分を取り直して!
力ーテンを勢いよく開ける。眩しい朝日が部屋の中に飛び込んできた。窓の外には、爽やかな青空が広がっており、遠くの山までくっきり見える。昨日は見えなかったが、街が見える範囲にあるのが分かった。
部屋の中が明るくなったのだが、少年は、ぐっすりと眠り続けていた。相当疲れていたのか、昨日の騒動でも起きなかったし……。こんなに朝日を浴びても起きないっていう状況だけれども。しょうがないから起こさないとだね。
今日の冒険が進まなくなっちゃうからね。
少年の顔に近づいてき、大きい声で少年に朝の挨拶をする。
「おはようーー! 少年! 朝だよー!」
私の大声に一番に反応したのは、グランちゃんのようだった。ふわふわした毛をもこもこと揺らして、四本足で立ち上がると、こちらを向いてニコニコと笑いかけて来た。
「ぐるるーー!」
「おーーっ! グランちゃんの方が早起きなんだね! おはよう、グランちゃん! 朝から元気がいい挨拶をできてえらいよ!」
能力を奪い取ったあとでも、モンスターは体調を崩したりはしないらしい。とっても元気そうに見える。
今日も、グランちゃんの可愛い声が聞こえたね。やっぱり、小型のモンスターっていうのが可愛くて良いよね。昨日のホワイトウルフちゃんの鋭い牙なんて、あんなのを間近で見続けてたから、トラウマになっちゃうよ。そして、あの凶暴な鳴き声。しばらくは見たくも無いし、聞きたくもないかな。
「がるるー」
「……うん?……なんとなく聞き覚えのある声がするけど?」
声をする方向を見ると、白いモフモフの物体がそこに立っていた。グランちゃんよりも一回り小さい、超小型件。けど、グランちゃんにも負けないくらいのフワフワした毛並みをしており、グランちゃんよりも長い尻尾をフリフリして、こちらを見つめてきていた。
「あ、あれ……? 君ってホワイトウルフちゃんだよね……? なんで、ホワイトウルフちゃんも一緒の部屋にいるの? まさか一緒に寝てたりしたの? あれ……?」
「がるるー!」
可愛い鳴き声と共に、私の胸へと飛び込んで来た。咄嗟に抱きとめると、腕の中んで、モフモフした身体を動かして、私の方を一生懸命に見つめてきた。
「こ、これは……。可愛い……」
私の言葉が分かるグランちゃんは、明らかに嫉妬したような面持ちで、こちらに向かってきてた。そして、私の足にふわふわの「毛を擦りつけて、「自分も可愛いです」というようなアピールをしてきた。
「ぐるるーー!」
「うんうん、グランちゃんも可愛いよ。けど、ホワイトウルフちゃんは、なんで私たちの部屋にいるんだ……?」
――コンコン。
「失礼しますっ!!」
ノックの後、すぐにドアが開けられると、昨日私のカバンの中身を集めてくれていた、宿のメイドさんが血相を変えて立っていた。
「あ、あの! ホワイトウルフちゃんが行方不明になってしまって! また悪さをしでかしちゃうんじゃないかって……。……って、あれ? もしかして今抱いているのって……?」
メイドさんは、私とホワイトウルフを交互に眺めて、驚いているようだった。口を開けたまま、指をさして私とホワイトウルフちゃんを自分の頭に認識させているようだった。
「いっ、いましたっ! ホワイトウルフ! どこ行ったかと思ったんだよ! お客様にご迷惑かけちゃうんだから、戻ってらっしゃい。朝ごはんあげるから!」
「がるがるー!」
「もう、お客様にご迷惑でしょっ! 早くこっちにおいで?」
「がるがるー!」
メイドさんは手に持っていた、ホワイトウルフの餌と思われるお肉をちらつかせていたが、ホワイトウルフちゃんはそれにつられることも無く、私の手の中でモフモフし続けていた。
なんだろう……。
昨日から、私に攻撃しようとしてたんじゃなくて、ただ私と触れ合いたかっただけなのかな……?
一切離れるそぶりを見せずに、私の手の中でモフモフしていた。
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