第37話 万事解決!

 ――再度、能力を吸い取る準備を開始します。

 ――しばらく、ホワイトウルフとの距離を保ってください。

 ――離れてしまうと、再度準備時間が必要となります。


「分かった。なるはやで、お願いしますね!」



 恐らく、この瞬間以外に、もうチャンスは巡って来ないだろう……。狂犬病で、人を襲おうとしていたとしても、頭が良い子なのは変わらないみたいだし。次に、門を盾に使おうとしても、次は門に噛みつきもしないかもしれない。



「ガウガウ、ガウガウーー!!!!」


 何度も上手くいかなかったホワイトウルフは、ストレスを全てぶつけるかのように、門に噛み付いていた。

 私は、ここでしっかりとホワイトウルフを見つめること。それだけが、今出来ること。


 なおも、暴れるホワイトウルフを見つめる。きっとこれで、いけるはず。グランちゃんの時は、この状態で一分待てばよかったんだよね。今回も、同じくらい待てばいいのかな?



 ――その通りです。

 ――先程解析は終わったため、もうすぐ完了します。


 徳の玉が、段々と強い光を放ち始めた。この感じは、グランちゃんの時に見たことあるの。



 ――条件が整いました。


「わかりました! それじゃあ、お願いします!」



 徳の玉は、眩くような強い光を放ち始めた。まるで昼間のように、辺りが明るくなる。これで、ホワイトウルフちゃんも、元に戻れるよ。



 ――それでは、能力を吸い取ります。対象はホワイトウルフー。

 ――パラメータ全て。全能力値を吸い取ります。



「ガル、ルルルルーー!!」



 ホワイトウルフは、門に身体をぶつけたりしながら、暴れ回っていた。「私たちを攻撃したい」というわけではなくて、単純に苦しがっているように見えた。



「ホワイトウルフちゃん、もうすぐ良くなるからね。暴れてるのも大変だもんね」


 門越しに、ホワイトウルフの身体を撫でてあげた。悪いのは、ホワイトウルフちゃんじゃななくて、病気だもんね。どうにか、早く治まるといいんだけれども。


 そう思っていると、ホワイトウルフが輝き出した。宿屋の光よりも、もっともっと強い光で輝いている。グランちゃんの時も同じだったもだけど、眩い光は、直視出来ないくらい。


 この反応。やっと機能するんだね!

 お願い、徳の玉さん! ホワイトウルフの悪いところも含めて、全部全部取って治しちゃってください!



 ――はい。かしこまりました。

 ――ホワイトウルフの能力を吸い取り開始します。



 ――ティウンティウン。


 ――戦闘パラメータの攻撃力、防御力、素早さ、体力を回収することに成功しました。

 ――獰猛さ、攻撃性を最低値に設定。

 ――スキル、『狂犬病』を吸い取ることに成功。

 ――体格の数値を最低値に設定。


 徳の玉のアナウンスにつられて、ホワイトウルフは煌々と輝く。そこから放たれた光は、徳の玉へと吸い込まれていった。

 グランちゃんの時と一緒で、何個も何個もパラメータが吸い取られていった。



 最終的に光が消えると、そこにいたのは小さなもふもふした物体であった。小型犬みたいな大きさで、両手に収まるくらい。何やら驚いたような顔で、ちょこんと立っていた。


 小型犬みたいに尻尾を振ってこちらを見ている。先程までの迫力のあった格好はどこかへ行ってしまったようで、愛くるしい目をこちらに向けてくる。

 こんなに小さくなるなんて、ホワイトウルフの赤ちゃんって、こんなに小さいのかな?

 先程まで光っていた瞳もすっかり敵意が無くなっていた。


「がうがうーー!」


 さっきまで、4、5メートルあった巨体が嘘みたい。鳴き声まで可愛い感じになっている。今すぐ抱きしめちゃいたいくらいだよ。


 小さく門の前でお座り。門を開けてあげよう。


「待っててね! 君はもう安心そうだから、宿に入ろうか? 今の状態になると、逆に君自信が危ない気がしちゃうよ。早く入っておいでー」


 そう言って門を開けようとすると、宿の中から主人が出てきたようだった。先程まで、ホワイトウルフが散々吠えていたからだろう。急いで走ってきた。



「ホワイトウルフが暴れる声が聞こえたんで来てみたんだが。あいつはどこへ行ったんだ? いつもだったら、門の外から宿を守ってくれてるんだが……。遠くにいても、白い毛並みが月に映えて分かりやすいんだが……」


「その子であれば、今目の前にいますよ?」



「……ん? そこにいるのは、ただの白い犬……? 白い毛並みが綺麗だけれども?……って、これがホワイトウルフなのか……?」


「がるがるー!」


 門を開けると、主人目掛けて走ってきた。足の周りをクルクルと回っている。


「はい。ちょっと小さくなっちゃいましたが、これが、ホワイトウルフちゃんです。先程まで暴れてしまって危険だったので、少し小さくなってもらいました」


「そ、そうなのか……? またまた、コイツが悪さをしてまっていたようで、申し訳無い。けど、小さくなった同時に凶暴さも無くなってくれた気がする」


「はい、その通りです! 凶暴さだけ残して、元の通りに戻すことも出来るので大丈夫です! 実質、病気が治ったの同じことです。良かったね、ホワイトウルフちゃん!」


 ホワイトウルフは、可愛く鳴き声をあげた。

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