第36話 作戦実行!
ホワイトウルフがゆっくりと助走をつけるようにして、走ってくる。かなり助走距離を取っているようで、こちらからは光る瞳しか見えないけれども、確実に近づいて来ているようであった。
――先ほど、言っておりましたが、なにか思いついたでしょうか?
「うん。このピンチを脱する方法を思いついたんア。あまり時間が無いけれどね……。チャンスは一度きり……」
――作戦を思いついたのであれば、良かったです。
――思いついたところがあれば、悪あがきでも実施してみるのが良いと思います。
やっぱり先輩のプログラムだね。きっと、私がギリギリわかるところまでヒントをくれたんだよね。その作戦しかないっていうところまで、私の考えを導いてくれて。それで、私が分かるところまで見守ってくれてたんだ。
先輩が教えてくれる時って、あえてわかりづらいアドバイスをくれるんだよね。自分で考えつけるようにしていないと、いざっていう時に困っちゃうからって言ってたんだよ。
それでも、私が困っていると、最終的にはヒントを出してくれたんだ。「こうすればいいじゃない?」って良くアドバイスしてくれていたっけ。
先日く、「教えるっていうのも難しいんだよ。自分で考えさせないといけないから。答えを教えるだけじゃ、その子のためにならないからね」って言ってたんだ。
さっき見えた走馬灯のうちの一つで、そんなことが見えたんだ。先輩の教えっていうのも、実は役に立つことだったんだね。当時は全然気付かなくて、厄介な先輩だなーって思っていたけれどもね。ははは。
実際にピンチなってみて、その状況になってみることで、初めて分かることっていうのもあるんだね。今になって先輩のありがたさが分かったよ。神界にいる先輩に感謝しておこう。生きてる人に手を合わせてお祈りすると、なんだか演技悪そうだけれども。
けど、先輩だったら許してくれるでしょう。先輩ってば、実はすっごく大きい心しているからね。私の信頼している、大好きな先輩。今度会ったら、この世界の名産品でもお土産に持っていきたいな。
よし、私のやるべきことは分かった。全部先輩の教えのおかげ。それを活かすためにきちんと遂行しよう。
これを実行するためには、ちょっとだけ怖い思いを克服すれば良いんだ。そこだけがネックになるけれども。私ならできるはず。震える足を止めるのよ、私。手の震えもしっかり止めないと作戦ができないよ。
金の玉が光り出した。
――ちなみにどういう作戦でしょうか?
「うん、やることは単純なんだ。あいつが門を跳び越えるところで、門を開けてね。あいつが跳んでいる隙に、私がまた中庭の方へ入っちゃうの。それで門を閉じる」
――なるほど。良い作戦です。幸運を祈ります。
徳の玉は満足したように、黄色い光を放っている。もしかすると、初めから作戦を私に教えてくれる気だったんだろうな。こんなピンチな状況だっていうのに、本当にギリギリ間で粘るんだからなぁ、もう……。
大っぴらには、協力できないけれども、私を助けようとしてくれているのだろう。それって、どんなポジションなんだよーって思うけれども。離れてると、暴走しちゃうし。かといって近くにいると、小言ばっかりだし。
本当に変な玉だよね。……って、今のは悪口じゃなくて、個性的で良い玉って褒めているからね。ポイントは減らさないでね。
――大丈夫です。そんなニュアンスも、把握できております。
――それよりも、集中して下さい。
――ホワイトウルフがやってきます。
徳の玉に言われた通り、前を見る。すると、ついさっき走り始めたホワイトウルフは、すぐそばまで来ているようだった。月明かりにくっきりと、その白い毛並みが光って見える。
正直、姿を見ると恐怖心が湧いてくる。さっき決意をして、気合を入れ直したけれども。それが、一瞬で揺らいじゃうくらい怖いよ。……けど、ここでしっかりやらないと、私にも、この世界にも未来は無い。
ホワイトウルフは一瞬で門の前までくると、先ほどよりも高く高く跳び上がった。その姿は、まるで上限の月のように、綺麗な子を描いて門の上空を飛んでいる。
門の高さが10メートルほどはある。それを確実に跳び越えようとジャンプしたことで、さらに高いところまで飛んでいた。この高さだと、かなりの滞空時間があると思う。
その間に、門の鍵を開ける。いざ実際の状況になると、震える手は止まっていた。
鍵が開いたら、すぐに門を開けて中へと入る。先ほどまで。上限の月のように柔らかい光を放っていたふわふわした巨体は、ミサイルのように直線的に地面へと向かってくる。
もう、ホワイトウルフの方は見ないでおこう。門の中で、鍵を閉めることだけに集中する。ホワイトウルフが地面に降り立ったとしても。こちらにすぐ向かって来ようとしても。
「よし! 鍵を閉めれた!」
「ガウガウ、ガウガウーーーーー!!」
ホワイトウルフは、外から噛みついてきていたが、門が私のことを守ってくれていた。
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