第35話 ホワイトウルフが走ってくる。
ホワイトウルフが暴れている。立ち上がれない状態のようで、顔だけをこちらに向けて門に噛みついてくる。先ほどの通り、門は強固にできており、壊れる様子はなかった。
門を挟んでるけど、怖いものは怖い。門が、いつか壊れてしまうかもしれないし、何かの拍子に門の鍵が開いてしまった日には、噛みつかれて、私の身体はズタズタに引き裂かれてされてしまうことだろう。
「……ねぇねぇ。一応聞いてみるんだけどさ、これって、もう少し早くパラメー夕ーを吸い取れたりしないの?」
――なりません。
――対象の解析をしてから出ないと、能力が吸い取れないです。
――しばらく、対象の近くでお待ちください。
「まぁ、そうだよね……。例外なんて無いか。ここで待機するしかないのね……」
グランちゃんの時もだけれども、猛獣の前で何もしないで耐えるってしなきゃいけないんだろう。かなりの苦行だよ。私は度胸試しをされているのかと思っちゃうよ。
このまま、何事もなく終わってくれればいいけれども。こういう時に限って、何か起きそうだから怖いんだよね。私の研修でも、あんなに失敗したんだもん。私って運が無いんだよね……。
グランちゃんの時は、これで上手くいったから。やり方としてはこれしかないと思うんだよ。選択肢としては、私は間違ったことはことはしていないはず。
そう思っていると、ホワイトウルフは、すっと立ち上がった。凛々しい巨体が私のことを見下ろしてくる。おそらく、門に当たった時の足の痛みがおさまっただろう。顔から焦りの色も消えていた。
「……あ、なんかちょっとまずいことになったかも。私はどこまで行ってもツイてないなー……。ちょっと、どこ行くのー……」
私の呼びかけむなしく、ホワイトウルフは再び庭の奥の方へと走っていった。颯爽と走る様子は、痛みが全快したのだろう。一度失敗した分、先ほどよりも気合を入れて走っているように見える。
ホワイトウルフは、中庭の中ですごく遠いころまで走っていってしまった。一度目に助走をつけた地点よりも、もっと遠い。この中庭の設計、もうちょっと狭くした方が良かったんじゃないかな……。ははは……。
遠くから、こちらを睨んでくる瞳だけが光ってみえる。
「けっ……、けど……。この間にパラメー夕ーさえ吸い取ってしまっていれば、怖がる必要は無いんだよね。パラメー夕ーの吸い取り状況ってどんな感じ?」
――今ほど解析が終わったところです。まだ、何も吸い取れていません。
「……で、ですよね。結構まずい状況だよね。……もっと早く吸い取れないかな?」
――今は、対象が遠いためパラメー夕ーは吸い取れません。
「……うん、そうだよね。それも分かっているけれども、望みが無いかなって聞いてみただけだからね」
――はい。いかがしましょうか?
「このまま、ここで待ってても良いと思う?」
――まずいと思います。
――ホワイトウルフが、こちらに走ってくるようです。
――今度は、先ほどよりも高く飛んでくることが見込まれます。
「ワオーーーーーーン!」
ホワイトウルフの叫び声とともに、光る瞳が揺れ始めたのが見えた。今の雄たけびが、気合の現れだろう。今度は絶対にこの門を跳び越えてくるだろう。
「あぁーー。もうダメだー。どうしようもないよ。誰か、なにかいいアイディア頂載よーー! このままじゃ、私死んじゃう!!」
――死にたくなければ、考えてください。
「もうっ!! こんなに大ピンチの時まで、先輩みたいな口調で言ってくるの、どういうプログラムになってるのよ!」
――ティロルン。
――人の悪口を言ったため、徳ポイントが減りました。
「……ほんと、こんな時まで。……はぁ。」
考えろっていうのは、先輩の口癖だった。どんなピンチの時にも、活路はあるっていうのが先輩の考え方そのもの。
むしろ、ピンチはチャンスっていうことを私に良く言って聞かせてきてたんだよね。そんな言葉をいう時の先輩の雰囲気が大好きだったな。私自身も、「ピンチはチャンス!」っていう言葉が好きになったりしたんだっけ。
何だか走馬灯みたいに思い出されてくるよ、先輩との楽しかった日々が。あぁー……。
けど、そんな思い出に浸っている場合じゃないんだよ。うーー、考えなきゃ。どうしよう、どうしよう。
そもそも、ホワイトウルフっていうのが強すぎるモンスターだよね。私がホワイトウルフから身を守れてのは、この門のおかげなんだよ。この門が無かったらすぐ死んでるところだったし。けど、この門を跳び越えられたら、どうにもならないし……。
――ピンチはチャンス。この言葉の意味とはなんでしょうか?
「いや、徳の玉さん、今はそんな悠長なことを言っている場合じゃなくてね。ピンチはチャンスって、追い詰められている状況こそ、逆に考えてみるってことでね。なにかを改善するためのチャンスっていうことで……」
……逆に考えてみる? 門があれば、攻撃は防げるわけだから……。
「そうかっ! このピンチを脱するやり方がわかったよ!」
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