第34話 助けてあげないと!

 中庭の奥の方へとホワイトウルフが行くのが見えた。白い毛は月夜に映えてるから、どこまで行っても見える。ゆっくりとこちらを振り返ったようだ。


 遠くからホワイトウルフがこちらを睨んできたのが分かった。目が合った瞬間、こちらへ全速力で走りだした。殺意さえもこもってそうに見える。


 その勢いのまま、門のところまで来たかと思うと、ホワイトウルフは跳躍した。自身の巨体の重さを感じさせないくらいに、軽々と跳んでいる。毛並みがキラキラと輝いていて、少し見とれてしまう。

 そんなのんきに眺めている場合じゃないんだけれども。綺麗なものはやっぱり目で追ってしまうな。


 そこの門を超えてこられたら、私も宿の人も、一貫の終わり。人生の最後に見る綺麗なものなのかもしれないな。

 なんてことが一瞬頭をよぎったが、ホワイトウルフの跳躍した高さが足りずに門にひっかかって、門へとぶつかった。高さもある門であったため、そう簡単には越えられないようだ。先輩にも負けず劣らずの良い設計をしている。


「……な、なんだ。心配しちゃったけど。さすがに、あの門を跳び越えるなんてことはできないよに。心配して損しちゃった。とりあえず徳の玉を、受け取らないとだね。予定通り実行しよう!」


 草陰にいる宿の人に向かっていく。まだ何が起こったかを認識していないらしくて、ブルブル震えているようだった。


「大丈夫ですか? 今、ホワイトウルフは、門の中にいるから大丈夫ですよ」


 声をかけると、おそるおそるこちらを向いた。私がいるのを認識しても、やはり気になるのか、周りの安全を気にしていた。

 一通り周りを見ると、安心したようで、こちらを向いてホッとした顔をしてくれた。



「私は大丈夫です。すごい怖かったです……」


「わかります。あいつ、すごい怖いですよね。何であんな風になっちゃってるんですか?」



「原因は良くわからないんですけれども。以前、ご主人様と、獣医様が話すのを聞いていたのですが、もしかすると病気かもしれないと言っておりました」


「病気、ねぇ。そういうこともあるのか……」



 ――お久しぶりです。


「わ、いきなり話し出した!」


「え、あなたが話しかけて……?」



「……あ、そうですよね、ごめんなさい。こっちの話でした。私のカバンを返してもらっても良いですか?」


 宿の人は不思議がりながらも、私のカバンだった残骸を渡してくれた。その端の方で、お目当てだった徳の玉が黄色く光っている。

 宿の人を背にして、徳の玉と、こそこそと話す。



「いきなり話しかけてくるなんてひどいよ。ぴっくりしたよ」


 ――私は、いつも通りです。

 ――あまり私を遠くへ話しておくと、危険ですよ。

 ――次からお気を付けください。



「……ちなみに、どうなるの?」



 ――爆発します。

 ――この世界を丸ごと巻き込んで。


「こわっ!!! 絶対に離しちゃダメじゃんっ!!」



 ――お気をつけてください。


「うぅ。そうだ! それよりも、あのホワイトウルフをどうにかするのが、先だよ!」



 ――ホワイトウルフは、狂犬病ウイルスに感染していることが確認できます。


「狂犬病? あの凶暴化はそのせいっていうこと?」



 ――正解です。


「どうにか、それだけでも吸い取っちゃえば、今のピンチは脱せるわけだね……。怖いけれども、行くしかない」



 ホワイトウルフは、門の近くで倒れている。門を超えれなかったことで、頭をぶつけたのだろう。立ち上がろうとしてい入るが、ふらふらとして力が入らないような仕草であった。


 そこをめがけて、走って近づく。怖い相手だって思うけれども、今のチャンスにやってしまわないと。そうしないと、こっちがやられてしまうから。

 走って門まで着く。


「よし、今のうちにいろいろ吸い取っちゃおう。お願いです、徳の玉さん。ホワイトウルフからいろいろ吸い取っちゃってください!」


 ――かしこまりました。

 ――ホワイトウルフを認識しました。

 ――パラメータを吸い取るためには、近くで待機をしてください。



「そうなるよね。やっぱり。その条件をどうにか軽くしたいものだよ……。先輩ってどこかアナログな部分を残すんだよなぁ……」


 ホワイトウルフが、近くにいるとやっぱり怖い。巨体をゆらゆら揺らしながら、まだ立てないでいるけれども。これが立ててしまったら、私の寿命は残り僅かになってしまうだろう。

 ホワイトウルフは倒れながらも、門の外にいる私の存在に気づいたのであろう。こちらを睨んできた。



「ガウガウ、ガウガウ、ガウーーー!!!」


 ――ガチャンガチャン!!



 立ち上がれないでいる状態だか、勢いよく暴れ始めた。門を噛んで、噛んで。いつか開いてしまうんじゃないかというくらい門を揺らす。

 私はここで耐えるしかない。何が起こっても、ひたすら。ホワイトウルフの病気やらパラメータが吸い取り終わるまで。我慢!


 全然生きた心地がしないよ。グランちゃんの時もそうだったけれども。けど、逃げちゃダメ!


 怖いけれども、これは病気だから。可哀そうな状態なんだよ、このホワイトウルフちゃんは……。私が助けてあげないと……。

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