第32話 門の外へ出る準備
門の外でホワイトウルフが吠えている。
こちらのことを、とても威嚇しているようだった。
「グルルルーー! ガウガウッ!!」
先ほどまで遠くから走ってきたホワイトウルフだったが、門の手前まで来たかと思うと、門に噛み付いてきたのだ。しばらくその調子で噛み続けている。
しかし、門は相当固い作りになっているのだろう。4,5メートルもあるホワイトウルフの巨体だけれども、流石に門は壊せないようだった。ガチャガチャと、ホワイトウルフの歯が門にこすれる音がするだけで、びくともしない。
「ガウガウガウーーーーッ!!」
――ガチャンガチャン、ガチャンガチャン!!
壊れないとわかっているけれども、いつか壊れてしまうんじゃないかという勢いで威嚇してくる。
さっきの私の考えていくと、宿に泊まった人が無賃で逃げ出さないかどうかを監視しているんだよね、きっと。もしそうだとしたら、流石にこれはやり過ぎなんじゃないかな……?
監視のレベルを超えて、あきらかにこちらに敵意を向けてきている。
このホワイトウルフちゃんは頭良い訳だし。やっぱりなにか、行動が異常な気がする……。
門を開けてもらうにしても、この子をどうにかしないとだな。
「餌でもあげたら、落ち着くのかな? うーん。どうしたらいいんだー……。……ん? あれってもしかして、私のカバンなのかな?」
門の外に人がいるのが見えた。私の荷物を回収してくれている人なのか、散らばった私の荷物を両手に持って草陰に隠れている。
よく見ると、ボロボロになったカバンも持っているように見える。多分、あの中に徳の玉が入っているはずなんだけれども。暗い中では、目視で確認することは出来なかった。
「ガウーーー!! ガウガウーーーーッ!!」
――ガチャン、ガチャン!!
ホワイトウルフは、依然として止まらない。
私は門があるから平気だけれども。同じ草原にいるっていう状態だと、いつ襲われるか分からないから、動けないよね……。私の荷物を持っている人は、草陰に隠れてじっとしている。怯えているのだろう、少し震えているようにも見える。
ホワイトウルフだって鼻が利くだろうから、もし私が門の前を離れちゃったら必ず荷物の方に行くだろう。そうしたら、また噛みついて暴れまわって。今度は、カバンを持っている人ごとバラバラにしてしまうかもしれない……。
そう思うと、かなりまずい状況。
まだ、ホワイトウルフがこちらに注目しているから大丈夫。
どうにか、私のカバンさえ手元にもらえれば。
徳の玉だけでも手元にもらえれば……。
こんな時ってどうすれば良いんだろう。
そういえば、こんな状況が昔あったかもしれないけど……。
神界にいる時の女神のお仕事をしている時だったよね、確か。
うーんと、何か緊急事態が起こった時の訓練っていうのをしたんだったかな?
転生者に対して、ある程度能力を与えた後、転生者が女神を襲うことがあるっていう状況だったかな?
いきなり力を手に入れると、確かめたくなったりする人もいたり。もしくは、勝手に全能感を得て、女神にも危害を加えようっていう輩がいるんだ。それだ、その時用の訓練だ。
どうやればいいんだっけな……。
緊急のボタンを押して、強制的に転生させちゃってたもんなぁ。ははは……。真面目に訓練しておけば良かったな……。
緊急ボタン的な役割のある、徳の玉を取ることが先決だよね。そのために、するべきことを考えよう。
まず、荷物を持っている人が動けない状態だとしたら、私が受け取りに行くしかない。うん。
次に、このホワイトウルフは、どうやっても私を狙い続けてくるわけです。うんうん。
そして最後、門があれば、ホワイトウルフの進行を阻むことができる。うん。
こんな三つの条件を満たせば良いんだ。
つまり、門を開けて、ホワイトウルフを中庭へと誘導する。そのあとで、私が門の外に出て、門を閉める。そうすることで、ホワイトウルフは門につっかえて、私を追いかけることができなくなって、私は徳の玉を受け取りに、宿の人のところまで行ける。
完璧な作戦! これで行こう!
「ガウガウガウーーーーッ!!」
ホワイトウルフはとどまることを知らない感じだね。こんなのに嚙みつかれたら、無残な最期を迎えることになるね。……怖いねぇ。
けど、覚悟を決めて行くしかない。
厄介ごとを、全部を解決するのが、元女神の私の役目だよね。
自己犠牲こそが、徳の本質!!
行きましょ!
「……けど、鍵っていうのは、どうやって開くんだろ?」
あの草陰にいる宿の人に頼むしかないのかな? なんだか、変な話だけれども。
「あのーーー、すいませーーん。この門の鍵ってどうやったら開きますかーー?」
ホワイトウルフがうるさいので、大きい声で聞いてみる。あの人は、しゃべれる状態かな?
なにやら草陰でこそこそと動いているようだった。少し動きが止まったかと思うと、なにかキラリと光るものが空に光って、ホワイトウルフの頭上を通って、門の中に落ちて来た。
鍵のようなものだった。
草陰のかさかさという動きは止まって、ホワイトウルフの鳴き声だけが響いていた。
よし、これで準備は十分!
「ありがとうございますーーー!! 今から助けに行きますよーーー! 待っててくださいーー!!」
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