第30話 カバンがグチャグチャに
「ダメでしょーっ!!」
ホワイトウルフは、カバンに入っていた荷物を散乱させながら、手紙を探し出していた。カバンの中にあった衣類なんかも、グチャグチャに出されてしまっている。
先程も注意したのに、今度は全然止まらないで暴れまわっている。
ホワイトウルフは、お目当てだった手紙だけ見つけると、じゃれあうように咥えて、足と手でビリビリに破きだした。
「なにしてるの!! おじいさんからの手紙だよ!!」
「ガウガウガウ、ワオーーーーン!」
月に向かって、遠吠えするように吠えるホワイトウルフ。手紙とじゃれあって満足したのか、敵でも倒したかのように勝ち誇っているのか。気持ち良さそうに吠えている。
コの字型の建物の構造も相まって、中庭に遠吠えが響いていた。
「あぁー……、手紙が……」
ホワイトウルフが暴れたことで、手紙は全て粉々にされてしまったようだ。それもかなり細かくちぎられているようで、手紙の破片は風に流されてさらさらと飛んで行ってしまった。
「なんで、こんなことするのよ!! 君は、頭の良い子でしょうー!!」
「グルゥーー!! ワオーーーーン!!」
なんだか今の状態は、聞く耳を持たない感じだ。どうしようもない……。
私の声が全然届いてないみたい。興奮しているのか、感情が制御出来ていないのか、手紙を切り裂いたあとでも、一人で暴れ回っている。目的の物を無くしたはずのカバンとじゃれあっている。
宿屋の主人は、あきらめた表情を浮かべている。
「すまない……。荷物を、こんなことにしてしまって……。最近のこいつは、歯止めがきかないことが多いんだ。昔はきちんと言うことを聞いたんだけれども……」
「そうなのですね。私のカバンだけが荒らされても、そこまで困らないんですけれども……。おじいさんからの手紙が……。大事なことが書いてあったかもしれないのに……」
宿屋の主人は、首を横に振った。
「しょうがない。今度、僕がおじいさんのところに行って話してくるよ。大切な用事があれば、その時に聞くことにする。けれども、十中八九、おじいさんのことだから、君たちを、私の宿に泊めて欲しいってところだろう」
そう言って、こちらに微笑んでくれた。
優しそうで誠実なところは、やっぱりおじいさんの教え子っていう感じだ。
こんな大きなホテルを経営してるということは、商売の才覚もあるだろうし。おじいさんの手紙の中身を読まなくても通じているようなところを見ると、この主人はかなりのキレ者だろう。
元々だったのか、おじいさんの教育の賜物っていうことなのか。
後者である可能性は高いかもな。おじいさんの教育だもんね。
宿屋の主人は、悲しそうな顔を引き締めて、宿の支配人の顔に戻った。
「それでは、案内しましょう。私の宿を。おもてなしさせて頂きます。」
「ありがとうございます!」
◇
私たち一行は、宿屋の主人に連れられて、ぞろぞろと客室を案内してもらった。先ほどのホワイトウルフの失態があったからなのか、空いてる部屋がそこしかなかったからなのか。理由は定かではないが、最上階のとても良い部屋に案内された。
少年を乗せたグランちゃんも一緒に部屋へと案内された。モンスターということも問題にされずに、何事も無いように建物の中へと入れたのだ。
それもこれも、宿屋の主人の配慮があってのだろう。
少年と少年の荷物は、安全にグランちゃんが部屋へと運んでくれた。一方で、私は荷物が散々にやられてしまったため、手ぶらで部屋へと着いた。
「こちらで、ゆっくりと過ごしてください。何かあれば、どうぞ遠慮なく。私じゃなくとも、従業員も沢山いますので」
「はい。何から何まで、ありがとうございます」
主人は、申し訳なさそうな顔になり謝ってきた。
「こちらこそ、ご迷惑をかけてしまったのでね。他のカバンの中身についても、なにか弁償できるものであれば、そうさせてもらいたい」
「ありがとうございます。ほとんどおばあさんの物だったので、どうにか謝りかた考えておきます。お気遣いありがとうございます」
私がそう返答すると、主人は頭を下げて部屋を後にした。
ゆっくり落ち着ける宿かと思ったら、初っ端からとんだ災難が合ったものだけれども。私や少年に怪我が無かったのは不幸中の幸いだったなぁ……。
もし、これが人間に対して行われたりしたらと思うと……。
ばらばらに嚙み千切られたカバンを思い出すだけで、ぞっとする。
まぁ、カバンの中身であれば、最悪の場合でも、徳の玉に頼めば元に戻りそうだしね。こういう時に徳の玉って、助かる存在だよね。
……あれ?
「徳の玉って、こういう時にも使えないっけ? 借金かさみ過ぎちゃったかな?」
今度は、敢えて声を出して聞いてみるが、答えが返ってこなかった。
徳の玉って、いつもうるさいくらい勝手に返事してくるのに?
なんで帰って来ないんだろう?
……って、もしかして。
私のカバンの中に徳の玉が入っていたから、それごとホワイトウルフにやられてしまったのかも。
……手元に、徳の玉が無い。
これって、ちょっと危機的状況じゃないかな。ピンチです……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます