第29話 ホワイトウルフの悪さ
門の中の人は、この宿の主人だと分かったの。確かに、こんな夜更けに、フラフラと出歩いているっていうのもおかしな話だし。
門の中から、わざわざ変なことを言いに来ただけなんて、そんなことがあるわけないもんね。
優しくて誠実そうな感じもして、おじいさんが紹介するだけのことはある人って感じだよ。
そんな人が、ホワイトウルフのことを番犬なんて言っていたけれども、番犬よりもかなり高度なことをしている。ただ見張るだけじゃなくて、お客さんが来た時には、優しくご主人様を呼んでいるの。
私はそんなことを知らず、ホワイトウルフにお腹を見せて、どうにか仲良くなろうとしていたってわけ。
的外れなことをしてたんだね。ははは……。
そんなことを通じて、ホワイトウルフって、すごく賢いことが分かったのね。
グランちゃんもだけれども、モンスターっていうのは気付いていないだけで、すごく高度な知能を持っているものもいるらしい。
この世界で生きていくには、そんな知識も自ら学んでいかないと生き残れないかもしれないというのが今回の所感。
どうしようもなくピンチな状況になるけれども。
それをどうにかくぐり抜けないと、この世界と神界が救えなくなっちゃうからね。
そして、そんな中でホワイトウルフの賢さを目の当たりにしたから、賢いねと褒めてあげようとしたのに、その前にホワイトウルフが悪さをしたのが、今の状況。
何を思ったか、ホワイトウルフが、なにかを嗅ぎ取って、私の荷物をぐちゃぐちゃにしていた。
ホワイトウルフは、かなり頭が良いのかもしれないとは思うの。私の考えよりも一歩先をいってるのかもしれない。
けど、人の荷物をぐちゃぐちゃにするのは、さすがに良くないよね。
こんな時は、まずは怒ってあげるのが、筋ってものだよね。そう思ったら実行せずにはいられないのが私の性分。
ホワイトウルフの目を見ながら、大きい声で伝える。
「コラコラ! 人の荷物をぐちゃぐちゃにしちゃダメなんだぞ? 人の物は丁寧に扱わないと! 自分がされて嫌なことは、他人にしちゃダメ!!」
少年を叱ったのと同じ調子で、ホワイトウルフに対しても言ってみる。どんな強そうな生物でも、人間と暮らすんだもん。ちゃんとルールっていうのを教えてあげなきゃだよね。
そうしたところ、ホワイトウルフから素直な返事をされた。
「……ワンッ!」
私の言葉がわかってくれたのか、ホワイトウルフは反抗を見せなかった。
荒らしていた動きを止めて、落ち着きを取り戻した。そして、主人の隣で伏せをする状態に戻った。
私の言葉が、ちゃんと伝わったことが、まず嬉しかった。誠意を込めればきちんと伝わる。ふふ。
私は、伏せをしたホワイトウルフに駆け寄って、頭をわしゃわしゃと撫でてあげる。
「そうそう、良い子だね! ちゃんと言うことが聞けるんだね!」
「ワンワンッ!」
やっぱり賢い子だ。ふふふ。
撫でている手がとても気持ちいい。ホワイトウルフの毛並みはとても柔らかくて、触り心地は、最高に気持ち良かった。
良い子だよーって意味で撫でて褒めてあげてるけれども、これはハマっちゃいそうだな……。
もふもふ……気持ちいい……。
良い子、良い子……。
「ほほー。なかなか珍しいこともあるんだな。ホワイトウルフが、初めての人に撫でさせてやるなんて。もう君に対して心を許しているみたいだぞ」
「ふふ。そうなんですか? ありがとうね、ホワイトウルフちゃん」
「ワンワンッ!」
――ティロリン。
――ホワイトウルフに教育したことで、徳が溜まりました。
ふふ。そうだよね。徳ポイント溜まるよね。久しぶりに教えるって行為をしたなー。こんなもふもふさんには、もっと教育するといいかもだね。撫でてあげるのも気持ちいいし……。
無限にもふもふが出来そうだったが、宿の主人の一言で止められてしまった。
「そうだそうだ、それでどうしたんだ? 何やら手紙があるそうだけれども?」
「そうですそうです。今、ホワイトウルフちゃんにぐちゃぐちゃにされましたけれども、この宿に着いたら、主人の方に渡すように書かれた手紙があるんです」
「なるほど、そうでしたか。それであれば読ませて欲しいです。誰からでしょうかね?」
「多分、あなたを教育したことがある、おじいさん先生なんですの」
私は、カバンの中から手紙を取り出そうと、カバンを探し始めると、再度ホワイトウルフが暴れだした。
「グルルーッ! ガウガウッ!!」
私が持っていた荷物を、口で奪い取り取るとカバンをぐちゃぐちゃにし始めた。
咥えたカバンを振って、中に入っていた衣服をバラバラに出していく。
「コラコラコラッ! ダメでしょ! 人の荷物をこんなことしちゃ!」
私は、さっきと同じ声色で叱ってみたが、今度は無反応であった。
ホワイトウルフは、何も話を聞かないで一心不乱にカバンを振り回していく。
「なんでこんなことするんですか! ダメでしょーー!!」
ホワイトウルフは、全然聞く耳を持たないで、悪さを続けていった。
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