第28話 ホワイトウルフ
月が空の高いところで輝く夜のこと。
門の中にいる人に話しかけられた。私は、仰向けでウルフに向かってお腹を差し出してる体勢になっているっていうのに……。
「それで、お嬢さんは何をしていらっしゃるところでしょうか? ホワイトウルフと、じゃれたかったのですか?」
「いや、えっと……。このウルフが吠えるものだからですね。私に敵意がないことを伝えたくて……。だってこのウルフ、すごい大きい声で、ずっと吠えてくるんですもの」
私は、仰向けで寝転んだ状態のまま、門の中の人と会話する。礼儀は正しくないと思うけれども、先にやっていることが優先だよね。
ウルフのご機嫌取りしないと、取って食われちゃうかもしれないし……。
引き続き私は、ウルフに対して敵意がないことを訴える。
「ほーらほら、私は敵じゃないよー! ただの弱々しい旅の人だよー。ここの宿のお客さんだよー。だから食べないでー……」
私の必死のお願いが通じたのか、ウルフは鳴くのをやめていた。ウルフだというのに、人間に教育された犬のように、お座りの姿勢をとって、門の中を見ているようだった。
月明かりによって、ウルフの凛々しい顔つきが、さらに陰影深く見える。月までも味方につけるような、そんなウルフに見えた。敵意が無くなることで、私のことを哀れんだり、見下して来るのかとも思ったけど、敬意を持った目で見つめて来るようだった。
もう攻撃はしてこないだろうけれども。私とじゃれるくらいになってくれないと、安心できない気がするんだよ……。そう思って、私が同じようにウルフをあやす行動を続けていると、門の中から笑い声が聞こえた。
「あはははは。この子は別に人を襲ったりしないですよ。見ての通り、頭の良いやつです。人間を襲うよりも、人間と友好に生きる方が良いと分かってるようです」
「そ、そうなんですか? こんなに大きくて強そうなのに……。人間を襲わないんですか?」
ウルフの顔をあらためて見ると、なんだか笑っているように見えた。多分、この人の言う通り、襲っては来ないのだろう。
元からと言われても、あんなに強そうに吠えてたのを見たら、納得できない気はする。
元からなのか、私の行いが良かったのか。
ウルフが微笑むくらいには、ご機嫌が取れたようなので、お腹を見せる格好をやめて、その場で私は立ち上がる。
地べたに寝転がって、『敵じゃないよアピール』していたから、肩や膝のあたりなど、土が付いてしまったような部分を払いながら、門の中の人の方を向く。
すると、門がゆっくりと開けられていった。
「その子は、ホワイトウルフ。この宿の番犬をしてくれているウルフです。頭が良いので、お客さんと、そうじゃない人は、簡単に見分けられていますよ。ふふ。お客さんが来たら、私に知らせるために鳴いて教えてくれるんですよ」
門が完全に空けられると、ホワイトウルフは門の中にいる人に、すり寄って行った。そして、仕事をしたご褒美を催促するように、門の中の人の周りをクルクルと回って、餌をもらっていた。
こう見ると、主従関係がしっかり成り立っているように見える。確かに、イタズラに人間を襲うような獣には見えなくなってきた。
ホワイトウルフは、餌をもらい終わると、門の中の人の横で伏せをする体勢となった。
旅館に来た新規お客様を出迎えてくれている、女将さんのような雰囲気。
「どうぞ、私どもの宿屋へ。ようこそいらっしゃいました。お客様ご案内いたします」
そうか。この人がこの宿の主人って事かな?
話が通じそうな、とっても良い人の雰囲気がある。こんな大きい宿屋を経営出来ているくらいだから、かなりの人格者でもあるんだろうな……。
ホワイトウルフは、こちらに歩いてきて私の荷物を降ろすよう促すと、それを加えてくれた。
さっきまで激しく鳴いていたやつとは思えないくらい優しい感じがする。
元から、敵じゃないもんね。
誰かに親切にされたら、お礼が基本だよね。
「ありがとう!」
「ワオン」
返事もちゃんとしてくれるんだね。
グランちゃんと同じ感じかもな。やっぱり大きい獣ってそれ相応の知能も兼ね備えて居るんだねきっと。
なんだか、この子と仲良くなれそうかも。
そう思った矢先に、ホワイトウルフは私の荷物をいきなり落として、クンクン荷物を嗅ぎ出した。
「えぇーー! なんか乱暴ですよ。私、恨まれることなんかやりましたかー?!」
「ワン、ワンッ!!」
私のカバンに吠えてるな。なんか特殊なものなんて入ってないはずだけれども。
ホワイトウルフの鼻が良いことに影響してるのかもしれない。なにかを嗅ぎ取って、開けるものを選んだのか。器用にカバンを開けだした。
「ちょっと、ちょっと。そんなに私の衣服を、 出さなくても……」
散らばる服の中から、一つ手紙が飛び出していた。
「あぁ……! そうだそうだ! おじいさんから手紙を預かってまして 昔、あなたを教えていた通っしまってました」
私の言葉に対して、主人の方ではなくて、ホワイトウルフの方が喜んでいた。
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