第27話 宿屋入口にて

 月夜の中、私の背よりも少し大きいグランちゃんとゆっくり歩く。涼しい夜風が吹いていて、気持ちの良い夜散歩という感じがする。

 森では感じられなかった草の匂いが鼻について、なんだか新鮮な気持ちもする。


 なんだか、一日中大変な思いをしたよね……。

 ずーーっと、歩いてたし。荷物重かったし。

 大きなグランちゃんは、めちゃくちゃ怖かったし。けど、グランちゃんと出会えてよかったな。

 とっても頼もしい仲間になってくれたもんね。


「グランちゃん! これから、仲良くしようね!」


「ぐるるー!」


 月の明かりで、周りも見渡せるし。モンスターの気配ももう無いし。今日一日の中で、一番平和に歩けている。

 もうゴールも見えてるし。早く宿に着きたいな。

 宿に行けば、今日一日が終われる。

 これで一安心だよ。



 先生になるーって言って、おじいさんの家を出てきたけど、そもそも先生になるためのスタート地点に立てないんだよね。

 そこに行くだけでも大変な道のりなんだね。


「まだ何にもやっていないのに、どっと疲れたよねー」


「ぐるー!」



「けど、グランちゃんみたいな可愛い子と仲良くなれたから、良かったよ!」


「ぐるるーー!」


 グランちゃんは、私の身体に鼻を擦りつけて、嬉しがってるようだった。私もグランちゃんと頭を撫でてあげる。

 ふふ。なんだかいい旅してるね。

 世界を救う旅だね。



 ――ティロリン。

 ――そうです。この世界の法則を歪めてしまってる状態なので、早く特ポイントを溜めてください。


「あ、はい。早く私が先生になって、ポイント大量ゲットできるように頑張ります……。もう、徳の玉さんは、先輩そのものに思えてくるよー……」



 ――それは、悪口と捉えていいのですか?

 ――悪口を言うと、ポイント減らしますよ?


「あぁーー!! うそうそ、冗談だよ。うぅー……」



 ――今のは見逃します。

 ――少しでも徳ポイントを稼いでください。

 ――神界への返済もお願いします。

 ――毎日、少しでも送らないと神界も大変です。

 ――宿でも、徳ポイントを溜めてください。



「うぅーーー……。矢継ぎ早に正論言ってきて……。徳ポイント溜めたいのは、やまやまなんだよ。けども、中々溜まらないんです」



 ――そこを頑張りましょう。




 そんなやり取りをしていたら、宿が目の前のところまで来ていた。遠くから見た時は、大きく見えなかったが、近くまで来ると相当大きい建物だ。


 コの字型に建てられた形をしており、中庭がついている。建物自体は、四階建て。

 一階あたりに、何部屋あるのだろうか。パッと見三十部屋はあると思われる。


 中庭部分には、噴水が湧き出していた。月明かりに照らされて噴き上がる水は、空中で綺麗に光っている。


 そんな建物や中庭と、立派な門構えが見えてくる。

 門は固く閉ざされていた。


「ここだよね? 門からして立派な宿だよ。本当におじいさんの教え子の経営してる宿なの?」


 門に手をかけると、何か獣の鳴き声が聞こえてきた。獰猛そうで威圧的な雰囲気の鳴き声。


「ガルルー……、ガウッ!!」


 驚いて、門から手を離す。後ろを振り返ると声の主はいた。


「……な、なにこのウルフ?」


 体長は、大きい時のグランちゃんと同じくらいなのかな。体長は、3、4メートルはありそう。

 細い手足が綺麗に伸びて、白銀の体毛は月明かりに輝いている。


 野生のウルフかと思ったが、どうも首輪をしているようだった。その様子を見ると、誰かに飼われているんだと思う。

 私たちのことを睨みつけながら、私たちの周りをクルクルと回りだした。なにかを警戒しているようだった。


 もう怖い目に合うのは懲り懲りだよ。

 グランちゃんに戦ってもらうのも、申し訳ないし、気を失ってる少年を放って置くのも心配だし。


 多分、こちらが敵じゃないってことを示せれば、襲ってこないと思うんだよ。


 手をあげて、降参してるって伝えてあげよう。


「……わ、私たちは何もしないよ。この宿に泊まりに来たんだよー」


「ググーーー!! グルルルル!」



「ダ、ダメかな? 全然警戒を解いてくれないね……。……というか、モンスターにとって、手をあげるのは、威嚇ってみに捉えられちゃうかな? 手を下げる方がいいのかな?」


 そう思い、今度は手を下げて、アピールする。私たちは敵じゃないんだよー……。


「ググーー! グワンッ!!」



 ダ、ダメだ……。

 どうにか、敵じゃないって気付いてもらわないとなのに……。


 うーん……、モンスターといえどやっぱりウルフなわけだから……。私たちがお腹を見せたりしたら、降参っていうことが伝わるのかな?

 その場で仰向けに寝転がって、じゃれて欲しいとアピールする犬みたいに、身をくねくねと拗らせる。


「私たちは、敵じゃないんだよー……?」


「グワンッ!! グワンッ!!」


 ダメだ……。なんでこんなにやってるのに、吠えるのよ……。


「……おや? お客さんかと思ったら、どうしたんだい、寝転がって?」


 門から、そんな声が聞こえた。声の方を見ると、凛々しい顔立ちの青年が立っていた。仰向け状態の私と目が合った。


「ようこそいらっしゃいませ、と言いたいところだけれども、こんな格好をしているお客様は、初めてだよ」

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