第26話 森の入口

 グランちゃんは私の掛け声に対して、前足を上げて勢いをつけた。

 私たちの周りを取り囲んでいた赤い瞳は、グランちゃんに怯えて動けないでいるようだった。


 その中に、勢いよく突っ込んでいくグランちゃん。取り囲んでいた一角に、体当たりしていく。


「ギギーーーーッ!!」


 フォレストゴブリンは、グランちゃんに撥ねられて飛ばされていった。すごい勢い。フォレストゴブリンの声に交じって、徳の玉から声が聞こえた。


 ――ティロリン。

 ――フォレストゴブリンを倒したことで、徳ポイントが溜まりました。



「え、えーっとなんで?」


 ――ここの森のフォレストゴブリンは、相当悪さをしていました。

 ――なので、それを倒したことにより徳ポイントが溜まります。

 ――また、グランちゃんが手下に加わったことで、グランちゃんが稼いだポイントも溜まります。



「へ、へぇーそうなの? 嬉しいけども。とりあえず、グランちゃんすごーい」


「グルルー!」


 フォレストゴブリンの群れを抜けて、軽快に走っていく。思ったよりも大量にいたようで、グランちゃんの通り道にいる奴らは、全部撥ね飛ばされていった。



「早い早い! すごいよ、グランちゃん!」


「グルー」


 グランちゃんの背中の上で、少年は気絶しちゃっているから、どうにか私が支えてあげている。

 とりあえず、このままのスピードで森の入り口まで行っちゃおう。

 グランちゃんに出会えて良かったかもな。


「早い早い一!」



 しばらく走っていくと、薄暗い森の中に、月明かりが照らすような、森の入り口が見えてきた。


「グランちゃーん、そろそろ、この辺で止まってー」



 私の言葉に対して、グランちゃんはゆっくりと足を緩めていった。歩いているスピードになったところで、グランちゃんは背中に手を伸ばしてきた。グランちゃんの手に乗って、ゆっくりと下ろしてもらう。

 少年は、まだ気を失っていたので、そのまま草地に下ろしてもらった



「ふぅ。ありがとう、グランちゃん。まだ、モンスターの危険もあるから、大きい状態でいようか」

「グル!」



 とりあえず、大きい状態のグランちゃんの近くだったら、安心感があるな。

 これなら、ここで野宿をしても問題なさそうな気さえしてくる。


 けど、おじいいさんとおばあさんは、森を抜けたらどうする気だったんだろう?

 まさか、野営じゃないよね?



 って、そうだそうだ、まずはメモを見てみよう。

 森を抜けるところまでは案内があったけれども。その後よね。

 カバンから、お祖父さんにもらったメモを取り出して開いてみる。


「なになにー? 何が書いてあるのかな?」



 ――森の入り口まで着いたら、その近くにある宿に泊まると良いじゃろう。

 森を抜けても、まだまだ夜は危険がいっぱいじゃ。

 そんな時は、先を急がず、宿に泊まって休むと良いぞい。




 おじいさんの可愛らしい字で書かれている。

 先生をやっていたということだろうか、わかりやすいように文字の色を変えて、大事なところを伝えてくれていた。夜は危険がいっぱいって強調されている。なるほどね。気をつけないと。やっぱり野営は危険か。


「それで、それでー? お手紙の続きは?」



 ――森の入り口にの、ワシの教え子じゃった子がやっている宿があるのじゃ、その子に、お願いの手紙を書いておいたから、それを渡すと良いぞい。

 そうしたら、泊めてくれることじゃろう。幸運を祈るぞい。



 おじいさんのメモの締めくくりに、可愛いイラストも描いてある。

 きっと、おじいさんが作ったキャラクターなのかな?

 丸い顔に、にこにことした目と、笑っている口が描かれている。

 なんだか、おじいさんを子供にしたら、こんな感じという顔だ。


「ふふ、おじいさんらしいな」



 おじいさんが言っていた宿はどこだろうな。

 森の入り口の近くっていうから、この辺りだと思うのだけれども。


 辺りを見渡すと、少し遠くの方に、一件家があるのが見えた。地図の縮尺的に見たら近く見えるけれども、実際には少し遠いのかもしれない。

 けど他に宿は見えないから。あそこであってるね。



「グランちゃん、あそこまで行こうか。少年も目を覚まさないし」

「グルル!」


 月明かりの下でグランちゃんを見ると、なんだか大きくて威圧感があるな……。

 このまま、グランちゃんは大きいままにするしかないのかな。宿に向かうにだけなら、こんなに大きくなくてもいいんだけどな。少年を背負えるくらいの大きさっていうのがしたいんだけどな。



 ――ティロン。

 ――はい。体格のパラメータは調整可能になっています。

 ――与える徳ポイントを調整すれば、可能です。



 おぉ。かゆいところに手が届く感じだね。すごく良いね。いま、すっごい便利さを感じたよ。機能性については、やっぱり先輩の設計が素晴らしいね。私の尊敬する人っていうことだけあるよ!


 ――ティロリロリン。

 ――先輩を陰で褒めたことで徳が溜まりました。


 ……いや、そんなことある?



 ――ありがとうございます。製作者を褒めることはとても良いことです。


 ……なるほど?

 ……まぁいいか。先輩が作り出した物は、なんだかよくわからない自我を持っているんだよね。先輩の魂が乗り移っているみたい。先輩を褒めたら徳が溜まる仕様なのかもしれない。



 気を取り直して。とりあえず、少しだけグランちゃんを大きい状態にして。少年を背中に乗っけて運べるくらいの大きさでお願いします。ティロン。


 ――かしこまりました。



 徳の玉の返事とともに、グランちゃんの身体は光り出した。巨大化した時と同様に、グランちゃんはミシミシと音を立てて、今度は小さくなっていく。

 程よく、私の身長と同じくらいの大きさになったところで、音は止まった。



「ぐるるー!」


 グランちゃんの威勢の良い返事とともに光も消えた。

 グランちゃんは、小さい時の可愛い声となり、身体は少し大い状態となった。


「よし、じゃあ、あの宿に向かって進もうー!」


 グランちゃんの背中に少年を乗せる。

 目的の宿屋は、見える範囲にあるから、私は歩いて向かうことにした。

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