第25話 グランちゃんに乗って

 凶暴なグランドベアーの能力を吸い取ったことで、可愛いグランドベアーちゃんが誕生したけれども。

 そのおかげで、フオレストゴブリンっていうやつに囲まれちゃってるっていうことだよね。

 今ってかなり、大ピンチな状況。


 少年は、周りを警戒しながら伝えてくれる。


「お姉ちゃん。これは、万事休すだね……。やっぱり僕がおとりになって、切り抜けるくらいしか思いつかないよ……」


「うーん、ちょっとだけ待ってね」



 少年は、きょろきょろと周りを警戒して、もはや私のことなど気にしていないようだった。

 少年の誠実さが身に染みてわかるけれども、徳の玉から聞いた方法が気になる。

 私はこそこそと、カバンの方を向いて話しかける。


 徳の玉さん。

 さっきの玉の説明だけれども、私とか少年にグランドベアーの力を付与するっていうのは、難しいっていう話?



 ――その通りです。

 ――人間にグランドベアーの力を与える場合は、骨格からして変える必要が出てきます。

 ――その場合のポイントは、グランドベアーに能力を戻すことの比になりません。

 ――膨大なポイントが必要となります。

 ――そのため、人間に付与する場合であれば、周りにいるフォレストゴブリンを全滅させる力は付与できないと判断します。



 なるほどね。

 それであれば、グランちゃんに再度グランドベアーに戻ってもらう必要があるっていうことかな。



 ――それが最適な選択だと判断します。


 また、あの凶暴なグランドベアーと睨み合いをしなきゃいけないのか。それしか選択肢が無いなら、やむを得ない。背に腹は代えられれない。



 ――いえ、能力を戻す場合には、戻す能力を選べます。

 ――凶暴性部分を戻さないことで、今のグランちゃんの従順な性格を保持できます。


 なるほど。確かに、凶暴性も吸い取ってくれてたよね。それも特殊な能力の一つっていうことなのか。それさえ戻さなければ、こちらは襲ってこないわけだもんね。

 あと、徳の玉さんもグランちゃんって呼んでくれるのね。



 ――固有名は、グランちゃんで登録されております。


 ありがとう。私の認識がそのまま名称になるのかもな。

 グランちゃんって可愛い名前でしょ?



 ――少し安直さがありますが、判別しやすい名前だと思います。


 ふふ。ありがとう。


「お姉ちゃん。ちょっと待ってみたけれども、やっぱり改善されないみたいだよ……。僕が右に行って引き付けるから、その隙に……」


 少年の言うように、じりじりと赤い瞳が近づいてくる。

 おそらく、こちらの力量がわかったのだろう。危険な獲物には近づかない狡猾さを持っているモンスタ一だもんね。こんなまったり話していたら、そりゃあ近づいてくるか……。


 あらためて、光る徳の玉の方の方へ向き直る。

 そうしたら、グランちゃんに能力を戻してあげて。なるべく迅速にお願い。


 ――かしこまりました。

 ――少々お待ちください。



 ……あっ、そうか。もしかしてまた、一分間待たなきゃいけないとかいう制限があるの?


 ――大丈夫です。

 ――一度分析が済んでいる対象にに対しては、付与と吸い取りは迅速に行えます。


 なら、良かった。それじゃあ早めにお願い!



 ――ティロン、ティロン、ティロン。

 ――グランちゃんの体格のパラメーターが上がりました。

 ――グランちゃんの戦闘パラメータの攻撃力、防御力、素早さ、体力が上がりました。


 徳の玉の音が鳴るたびに、グランちゃんの身体からミシミシと音を立てて大きくなる。


「ぐる……、ぐる……、グルルルル……」


「えっ、えっ?! どうして、グランドベアーがまた大きくなるの!?」



 驚く少年をよそに、グランちゃんはさっきまでの大きさを取り戻していく。目の前にまたグランドベアーの巨体が現れる。


「グルルゥー、グルルルルルゥ!!」


「ダメだ……。モンスターがこんなにいっぱい。しかも一匹はグランドベアー。さっきよりも状況が悪いよ。もうお姉ちゃん、早く逃げようって言ったのに……」



 少年は、もはや涙声だった。

 悪いことしちゃったかもだけども、徳の玉のことを言わずに、グランちゃんの能力を出し入れしているのを伝えるのなんて難しいよね。いつか、ちゃんと弁明しないとだな……。


「もうダメだよ。うぅぅぅうわーーーん。僕まだ死にたくないよーー!」


「あぁあぁ、ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだけどね。グランちゃん、ちょっと私たち二人を乗せて!」


「グルルルー!」


 私の掛け声に対して、グランちゃんは腕をひょいと振って、私たちを捕まえた。

 少年は、もはや声を発さなかった。もしかしたら、気絶しちゃったのかも?


 私たちは、グランちゃんの背中に乗せられた。

 そうしたら、グランちゃんは私たちが背中に乗りやすいように、四つん這いになってくれた。少年が前、私が後ろになってグランちゃんにまたがった。


「少年、大丈夫?」


 そう聞いても、反応が返ってこないところを見ると、多分気絶しちゃっているんだね。

 私が掴んであげないとだな。


 グランちゃんは、首だけ少し振り向いてくる。



「よし、じゃあ、フォレストゴブリンたちは気にせず、このまま森の入り口まで行っちゃおうか。

 こんなに大量のフォレストゴブリン構うだけ大変だよね」


「グルー!」



 グランちゃんが一歩進みだすと、赤い瞳は一歩退いた。

 さすがにグランドベアーに対して戦いを挑もうっていうフォレストゴブリンはいないようだ。



「よーし、グランちゃん! しゅっば一つ!!」


「グルーーー!」

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