第24話 フォレストゴブリンに囲まれる
「ぐるるー」
先ほどまでの低い唸り声とは、打って変わって、高くて可愛い声を出すグランドベアー。
今の状態は、グランドベアーの面影も無いから、『グランドベアーだったクマ』と言った方が正確かもしれない。
グランドベアーの状態だと睨み合っていたから近づいて来なかったけれども、小さくなったクマは、私のひざの辺りにすり寄ってきた。私のひざに顔をすりすりと押し付けてくる。子供が甘えるような、そんな仕草に見える。
「お、お姉ちゃん。これってどういうこと? グランドベアーは、どこに行ったの?」
「グランドベアーは、この子だよ。小さくなっちゃって、可愛くなっちゃったみたいだよ」
「ぐるるぅー!」
私の言葉がわかるのか、自分がグランドベアーだよと答えるようにして、可愛く手を上げるクマ。もふもふした毛皮がふわふわと揺れる。……可愛い。
「そ、そんな事ってあるの? グランドベアーだよ!? 泣く子も黙るって言われている、あのグランドベアー……」
「ぐるるるー! ぐるるぅー」
グランドベアーは、可愛く四つん這いになって、少年のことを威嚇するような姿勢になったが、すぐに可愛く二本足で立って、可愛さをアピールした。
おそらく、「さっきまでは、怖いグランドベアーだったけど、今はこんなに可愛くなりましたー」って言っているんだと思う。
言葉はしゃべれないものの、なんだか私にはグランドベアーの言いたいことが分かる気がした。同じ思考レベルっていうことなのかもしれないな……。はは……。
「これがグランドベアーっていうことだとしたら、どういうこと? お姉ちゃんが、こいつを弱体化させたっていうこと? それって、すごいよ!」
「いや、まぁ、弱体化というか、可愛くなってもらったっていう所かな? ね、グランドベアーちゃん!」
「ぐるるー!」
グランドベアーは、すごく人懐っこくなっている。モンスターって、全ての能力を取ったら、こんな風になるのかな? 赤ちゃんが、初めてみるものをお母さんって思うような事なのかな? 無防備にもほどがあるっていうくらい、私に懐いている。
どちらにしても、これで窮地はしのげたっていうわけだね。
はぁー、怖かったー……。
グランドベアーは、可愛く手を挙げて答えてくれる。
「ぐる!」
「ふふ、やっぱり私たち通じ合ってるみたいだね。今の君は可愛いから、グランちゃんって呼ぼうかな?」
「……ちょっと、お姉ちゃん」
「んー? なになに? 名前は重要だから、付けてあげないとだよ。グランちゃんって可愛い名前だと思うよ? 他に良い案があるっていうこと? 少年ってば、深刻そうな声で言ってきても、代替案をしっかり考えてくれないとだよ? 否定をするなら、代替案を出さないとだよ?」
よく先輩に言われていた言葉がついつい出ちゃう。
なんだか説教臭いから私はイヤだーって思ってたんだけれども。言いたくなっちゃうものだね。
まぁ、これも、少年に対しての教育かもだから、いいか。
「……違うんだよ。今の状況、もしかしたら、さっきよりもまずい状況かもしれいないよ」
「どうして、どうして? なに状況って? 私とグランちゃんがイチャイチャしているのは、なんにもまずくないよ? むしろ関係良好! あ、もしかして少年はヤキモチでも焼いているのかな?」
「……ちょっと周りを見てみてよ」
「んー? どれどれ?」
少年に言われた通り、周りを見渡すと、暗い森が広がっているのが見えた。先ほどまで少し残っていた日は、すっかり落ち切っていた。暗くなった森に目を凝らすと、暗闇の中に大量の赤い瞳が見えた。
その赤い瞳は、前だけでなく、右も左も、後ろにもある……。
「あれ……? これって どういうこと……。魔物に取り囲まれていない……?」
――ティロン。
――正解です。
――今取り囲んでいるのは、ゴブリンです。
――通称、フォレストゴブリン。一体あたりの攻撃力は高くないものの、知能が高く、群れで狩りをします。
――多様な武器を操ることができる点で、強敵になりうる可能性があります。
徳の玉さんが答えてくれるのね。ありがとう。そんな敵に囲まれているのね……。
「夜になると危ないっていうのは、こういうことだったのかもね。フォレストゴブリンっていう奴らは頭が良いから、獲物から姿を隠せるような夜に狩りをするって聞いたことがあるよ」
「少年、相変わらず物知りだね。ありがとう……。けど、どうしよう。これじゃ、逃げ場が無いよ……」
さっきみたいに、徳の玉の力を使う戦法をやろうとしても、多分失敗するだろう。こんな大量の敵に対して、一匹一匹能力を奪っていくなんて出来ない。そんなことしている間に、攻撃を受けちゃう……。
なんでいきなり、こんなにいっぱい出てくるのよー……。
――おそらく、先ほどまでは、グランドベアーがいたことで、周りのモンスターは隠れていたようです。――グランドベアーの反応が無くなったことに気付いて、フォレストゴブリンが集まったものと考えられます。
なるほどね……。
もし、そうだとしたら、グランドベアーの能力を取っちゃったの失敗したのか。
私って、よく判断ミスをするんだよね。「先のことを考えなさいよ」って、先輩にもよく言われたっけ。けど、さすがにこんな状況は読めないよ……。
せめて、取っちゃったグランドベアーの能力が使えたりすればいいんだけどなぁ……。
――吸い取った能力は、徳ポイントに変換もできますが、そのまま能力として与えて使うことも可能です。
――付与する対象によっては、追加でポイントが必要があります。
――おすすめは、元の対象に戻すことです。その場合は追加ポイントは不要です。
「ほぇー? マニュアル説明してくれるの優しいー……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます