第23話 グランドベアーがもふもふに

 ――グルルルル。


 グランドベアーと、すぐ近くで睨み合う。あちらから手を伸ばせば届きそうな距離にいる。攻撃体制になんか入ったら、私は一撃でやられてしまうと思う。

 こんな近くで、一分間も睨み合わないといけないのか……。もはや開き直るしかないかもね……。


 この状況、先輩に説教されている時と同じくらいの威圧感があるよね……。

 先輩に説教されている時って、変な言動をすると、すぐにそれに対しても猛烈に指摘してくるんだよ。何をしても裏目に出ちゃう時があるんだ。そんな時は、なるべく黙って、先輩の琴線に触れないように頷いたり、簡単な返事だけするの。今って、それと似た状況だよ……。



 怖いんだけれども、やるしかないよね。私と少年が二人とも助かるためには、これしかないもんね。今私が睨んでいるのは、先輩。それを、なだめるのと一緒。いっぱい怒られてきた私にならできる。



 ――グルルルル。


 ……やっぱり、怖いわね。

 徳の玉さん、あとどのくらい?



 ――残り時間は、あと50秒です。


 うんー……。長いよね……。

 時間が経つのって、こんなにゆっくりなんだっけ……。

 能力を少しづつ吸いとるとかじゃないの? 何でそんなに時間がかかるの?



 ――はい。かかる時間の大半は、能力の解析をする時間となっています。

 ――少しずつ吸いとるということはできません。解析終了次第吸いとることが可能になります。


 はい、わかったよ。

 この玉の性能だと、そのくらいっていうことだよね。もうちょっと性能が高い玉をくれても良かったのにな。先輩って、ちょっとしたところで、ケチっぽさが出るんだよね。


 ――ティロルン。

 ――悪口を言ったため、徳が下がりました。


 ……はい。それも分かっています。

 いいから、早く発動してよー……。この一分は長すぎるよ……。



 ――グルルルル。


 グランドベアーが、一歩近づいてきたように見えた。さっきまで動かなかったのに、なんでか今になって動いたようだった。

 目を離してないと思うんだけれども。変な動きでもしちゃったかな……?

 もしかして、私のことが強く無いってわかっちゃったのかも。



 ――グルルルル。


 グランドベアーは、また一歩近づいてきた。確実に獲物を捕らえるために、逃がさない範囲まで近寄る気だ。ちょっと後退して、距離を取った方が良いのかな……。



「お姉ちゃん、下がっちゃダメだよ」


 気付くと、少年が隣にいた。後ろに下がろうとした私の背中をそっと押してきた。そして、少年の方が一歩前に出てグランドベアーへ近づく。



「お姉ちゃんが、なにをしようとしているかは分からないけれど、協力するよ」


「ちょっ、ちょっとそれ以上近づいたら危ないよ……」


「大丈夫。こっちから近づいた方が、優位に立てるから……。逃げた瞬間に、やられちゃうからね」


 確かに、そんな雰囲気はあるけど、こんな状況で逆にグランドベアーに近づけるなんて、どんな心臓しているんだろう……。

 少年とグランドベアーはお互いに近づいていって、もうほとんど距離が無い。グランドベアは腰を丸めるて、少年の顔の前まで自身の顔を寄せる。

 少年は全くひるまずに、にらみ合いを続けている。


 いくらなんでも、やられない保証はないよ。

 徳の玉さん、あとどのくらいよ! もう待てないよっ!



 ――あと20秒ほどです。


 まだそんなにあるの!? もう遅いなー!!



 ――ただ、この場合だと、能力を吸いとる対象は、少年の方になってしまいます。

 ――効果の発動は、一番近い対象に対して発動する形になります。


 また、なにその条件厳しいやつ! そんなこと言ってたっけ?

 えっと、じゃあ、私が少年よりも前に出ていかなきゃってことね……。


 ……ふぅ、覚悟決めてやろう。



「少年、私が変わるから。こういう時は、お姉さんに任せるの。私が責任持つから」


 私は、睨み合っている少年の前に出ていく。そして、グランドベアーに触れるんじゃないかという距離。

 赤い瞳が眼前に迫る距離。グランドベアーの吐く息が、頬に当たる。


 ……もう心臓が弾けそうだよ。なにこの度胸試しは。

 けど、怖くても、表情を変えちゃダメ。相手よりも上の立場だってわからせないと。



 ――グルルルル。



 そのまま、睨み合うこと10秒ほど……。


 ――条件が整いました。

 カバンが、今までに見たことないくらい光り始めた。



 ――それでは、能力を吸い取ります。対象はグランドベアー。

 ――パラメータ全て。全能力値を吸い取ります。


 ――グル、ル……?



 お願い、徳の玉さん。グランドベアーを全部全部取って弱くさせちゃって!


 ――はい。かしこまりました。



 ――ティウンティウン。


 ――戦闘パラメータの攻撃力、防御力、素早さ、体力を回収することに成功しました。

 ――獰猛さ、攻撃性を最低値に設定。

 ――体格の数値を最低値に設定。


 徳の玉の声と共に、グランドベアーは眩い光りを放つ。放たれた光は、徳の玉へと吸い込まれていった。

 何個も何個もパラメータが吸い取られていった。最終的に光が消えると、そこにいたのは小さな小熊であった。

 背丈は少年よりも、もっと小さくなっていた。歩き始めた赤子くらいの大きさ。赤く光る瞳もすっかり敵意が無くなっていた。


「ぐるるー」


 そんな鳴き声をさせながら、私の膝に抱き付いてきた。

 犬がお手をするみたいな感じの、じゃれつくような優しい触り方。


「ぐるぐるー!」

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