第22話 グランドベアーに接近

 徳の玉を使って、グランドベアーの能力を奪い取ってしまう。そうすれば、あいつはすっごく弱くなるわけだよね。私たちにも勝てるくらいになるはず。

 今の状態じゃ、逃げ切れないだろうし。この作戦しかない。

 ただ、あいつに近づけばいいわけ……。



 ――グルルルル。


 グランドベアーは、相変わらず赤い目つきでこちらを睨んでくる。


 ちょっと怖いけど、能力さえ奪っちゃえばこっちのものだから……。爪の鋭さとかなくなるはずだし、鋭い目つきだって柔らかくなるはず……。

 目を合わせておけば、グランドベアーは動かないわけだから、大丈夫なはず……。



「少年、私に考えがあるから、荷物を返してもらっても良い?」


「どういうこと? 荷物を持っていたらお姉ちゃん、全然走れないと思うんだけれども……?」


 少年は、しぶしぶと荷物を返してくれた。私の荷物の中に徳の玉が入っているからね。これをあいつの近くに置けば良いだけ……。

 今、あいつとの距離は、20メートルくらい。まだまだ遠いから、ちょっとずつ近づいていかないと……。



「ど、どうしたのお姉ちゃん、何でグランドベアーに近づいて行ってるの……? お姉ちゃんは、早く逃げてよ!」


「そうか。少年には、詳しく言えないんだけれども。君が囮になるっていう話は無しにしましょ。私が、グランドベアーをどうにかするから……」


「よくわからないよ、お姉ちゃん……」



 ――グルルルルゥ。



 申し訳ないけど、少年に色々説明している暇はない。私は、じりじりとグランドベアーに近づいていく。

 どこまで近づけばいいのかな……?



「……お姉ちゃん大丈夫? 早く逃げないとだよ」


「これが上手くいけば、大丈夫なんだよ。めちゃくちゃ、怖いけど……」



 ふぅー……。

 この怖さって、いろんな人を転生させていた時を思いだすな……。

 転生者って素直な人もいれば、獰猛な人もいたんだよね。自分が死んだことを受け入れない人とか。スキルを与えたら、いきなり襲ってくる転生者もいたんだよ。女神を倒して、もっとスキルを手に入れようとかね。


 そんなときには、女神の力を使って、転生者を寝かせることも出来たりするんだよ。強力な催眠をかけたりしたんだよね。


 怖かったけれども、その時は女神の能力があったから、少し余裕はあったんだ。

 能力が無いとなると、こんなに恐怖を感じるんだね……。



 ――グルルルルー。


 グランドベアーは、今にも襲ってきそうだ。


 ちょっと徳の玉さんに聞いてみよう。

 徳の玉さん、この荷物ごとグランドベアーの前に投げるだけでいい?


 ――答えは否です。徳の玉の力を発動するためには、所有者が持っている必要があります。

 ――そうしないと、発動ができません。


 ……そ、そうなの?

 もうちょっと融通が利かないのかなぁ……。相変わらず先輩が使う道具は、アナログ仕様だなぁー。

 先輩に会うことがあったら、改善点をいっぱい挙げてやろう。

 もしここで死んじゃったら、先輩と会えるのかな……。



 ――グルルルルー。



 グランドベアーに段々と近づく。15メートルくらいの距離。あちらは、まだ動きを見せないで仁王立ちしている。

 私は、どこまで近づけば良いんだろう……。

 徳の玉さん、徳の玉の力って、発動してからどのくらいで能力を吸い取るの?



 ――はい。発動から、1分程で能力吸い取りが完了します。


 ……えっ? 長くない? 能力を与える時は、一瞬じゃん!



 ――それが、徳の玉の仕様です。この世界事態に影響を与えないよう、出力が制限されています。



 そうなんだね。分かったよ。

 とりあえず、近づかなきゃなんだよね。怖がらずにもう少し……。


 最初いた所から近づいて、今は、10メートル位の距離。かなり近づいたと感じる。

 段々と姿が見えてくると、恐怖感も増してくるね……。

 このくらいでどうかな?



 ――ダメです。効果は、3メートル以内の範囲になります。


 そうなんだね……。

 そうだとしたら、まだまだ近付けばいいんだね……。うぅ……。。


 まだまだ遠いので、じりじりと歩みを進める。

 その間もずっと睨んでいる状態。


 近づいてくると、首の角度が段々と上向きに変わる。



 3メートル。

 グランドベアーの手が今にも届きそうな距離。目をそらしたら一瞬でやられちゃうんだろうな……。

 睨み合いで、こんなに動かないんだね……。もうちょっとの辛抱……。

 そろそろ、徳の玉の力って使える?


 ――はい、可能です。徳の玉の力を使いますか?


 お願いします。対象は、グランドベアーで。



 ――はい、かしこまりました。徳の玉の力により、能力を奪い取ります。


 ここから、発動まで時間がかかるっていうことだよね。この場にいなきゃいけないんだよ。



 ――グルルルルゥ。



 私は同じ調子で見つめているんだけれども、グランドベアーの方も動き出した。

 ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。


 何で動いてくるのよ……。怖いよ……。

 徳の玉さん、早くならないですか……?



 ――ただいま発動中です。吸い取りが完了するまでしばらくお待ちください。


 目をそらせないって、怖い……。

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