第20話 グランドベアー
少年にカバンを持ってもらっているおかげで、軽快に歩いている。
ただ、歩けど歩けど、ずっと同じ景色が続いている。一向に森の入り口が見えてこない。
「今って、どこまで来ているんだろうね。森の入り口ってなかなか見えないんだね」
「そろそろ入り口についてもいい頃だって思うんだけど」
「……もしかして、迷った?」
「いやいや、一本道だし迷う要素はないはずなんだよなぁー」
私はよくやらかしちゃうからな一。
前にも、一回やらかしたことがあったんだよね。
先輩におつかいを頼まれたときにも、同じように地図を見ながら神界の森の中を進んでいたんだよ。そのはずなのに、全然目的地に着かなくて。
なんでだろうなーってよく地図を見て見たら、地図が逆さまに持っていたっていうことがあったんだよ。
迷子になってた私は帰れなくて半べそだったんだけど、先輩が迎えに来てくれて、どうにか遭難せずに済んだんだ。
まさかそんなベタな失敗は、今回はしていないはず。少年と確認し合っているし。
おじいさんにも、ここの道をまっすぐって言われていたから、間違えようがないんだよ。
「うーん。多分、もうちょっとだと思うんだよ。この森って目印が無いからわかりにくいよなー」
「確かにそうだね。目印でもついていてくれれば、いいのにね。帰り道用につけておこうか」
「それは良いかも」
私は、少年の持っているカバンを探って、木の枝に巻き付けるのにちょうど良い長さのスカーフを取り出した。そして、木にサササッと巻く。
「帰りはこの道を通るわけだから、帰りにこのスカーフを回収して帰ろうね!」
「うん!」
途中から、目印をつけながら歩いていった。帰り道もこれでわかるし、もし迷子になったらここに戻ってこれるからね。
おばあさんのスカーフ、かなりの数入れられたから、ちょっとくらい減っても問題ないよね。いっぱい入れてくれたことに感謝だよ。
◇
歩くペースは落としていないはずなんだけれども、森の入り口にはつかずに、時間だけが経過していった。木々の隙間から見える青空が、段々と赤みを帯びてきており、日が落ちてきているのが分かる。森全体が暗くなってくるようだった。
その雰囲気が、何だか薄気味悪く思えてくる。
少し焦る気持ちもあって、足を速めて私は少年の隣に並んで歩き始めていた。
少年の方を見ると、少年の横顔にも少し焦りの色が見えた。けど、私に気を使ってか、私としゃべるときは笑顔を向けてくれた。
「お姉ちゃんがペースを早くしたい気持ちもわかるよ。多分あともうちょっとだよ、きっと大丈夫」
「うん……。暗い所って、昔から苦手でさ。どうにか早く森を抜けたいなって思うよ……」
私の不安を吐露すると、少年の方から手を差し出してきた。きっと、私を不安にさせないように手を伝ってくれるっていうことだね。
あぁ……、優しいなぁ……。
少年は良い所の育ちだよ、本当に。
――ティロリロリン。
「わっ!」
――少年の良い行いに、徳ポイントが溜まりました。
「ちょっと、その音、びっくりするから、いきなり鳴らないでよ!」
ついつい声が出てしまった。徳の玉にに言ったつもりだったけど、少年の方が反応した。
「えっ……? 僕の手をつないだから? ご、ごめんなさい。不安かなって思って……」
「あ、ごめんごめん。そういうわけじゃなくてね。少年の手は、とっても嬉しかったよ。ただ、玉がびっくりさせてくるのよ。まったく……」
「うん……? 玉ってなに……? 良くわからないけど、少しのことでもびっくりしちゃうって、相当疲れているよ。少し暗くなってきたけど、一回休憩挟もうか。2,3時間くらいずっと歩きっぱなしだったしね」
「あはは……、玉ってなんだろうね。ありがとう、ちょっと休憩しようか」
あぁ、やばいやばい。
気を抜くと徳の玉のことをしゃべっちゃいそうだよ。
疲れも溜まっているし。あらためて気をつけないとな。
少年に変な態度を見せちゃったから、少年が出してくれた提案には素直に乗っておく方が良いよね。
私も歩きっぱなしで大変だったし。
まぁ、そうは言っても、少年が荷物を持ってくれていたから、そこまででも無いけれども……。
「あのあたりが良いかも。まだ少し明るい所だし」
私と少年は、木の根が隆起しているところに腰を下ろした。少年は荷物を置いて、自分のカバンに入っている食料を取り出してくれる。
「休憩だから、ちょっと食事でもしておこう。夜になっちゃうと、気軽に休憩できなくなるかもだし」
「そ、そうだよね。夜になると、ちょっとこの森危ないって言ってたよね」
まだ手元も見えるくらいには明るさが残っているけど。少しずつ薄暗くなる景色が、私の恐怖心を煽ってくるみたい。なんでも怖く見えてきちゃうよ……。
――ワサワサ。
「あれ……? なんだか、あそこの草むら、揺れてなかった?」
「お姉ちゃん、怖がり過ぎだよ。まだ夜にはなっていないからモンスターは出ないと思うよ?」
「けどけど……、夜じゃなくても、暗くなっては来てるし、モンスターっていうのは出るのかもしれないんじゃ」
――ワサワサ。
「やっぱりさ……、あそこ揺れてるよ……?」
「どれどれ? それが本当だったら、のんびりしている場合じゃないけれども」
――ワサワサ、ワサワサ!
揺れが大きくなったかと思うと、草むら3メートル以上はあるような大きな獣が現れた。
薄暗いから良くわからないけれども、二本足で立っているように見える。太い足が二本。毛で覆われているのは分かる。
赤く光っている目がこちらを睨んでいる。
「お、お姉ちゃん。あれって、もしかして『グランドベアー』じゃないかな?……あんなに大きいクマと言えば、それくらいしか思いつかないよ。とっても獰猛な奴だって聞いたことがある……」
「そ、そうなんだ。詳しいね。ははは。こんな時ってどうすれば良いのかな……」
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