第19話 多段式な徳の溜め方
私が教育した人だけが、徳の玉に登録することができる。
そして、徳の玉に登録した人が良い行いをすると、徳ポイントが溜まるっていうことね。
――その通りです。
そう言うことだったら、やっぱり私が先生になって、いっぱいの子供たちを教育していって。
そして、その教え子たちを徳の玉に登録させてってすることが、徳ポイントを溜めるには良いっていうことなのかもしれないな。
――それは、とても良い方針だと思います。
なるほどね。そんなことができるんだね。
けどさ、そういうことだったら、もっと早く言ってくれればいいのに。私が先生になるのを悩んでいる時に背中を押してくれるってことで、教えてくれても良かったじゃん。
――自分自身で決意することが大事です。
……うーん。この世界の命運がかかってるっていうのになぁ。
まぁ、私自身で先生になるって決められたから良いものの。そうじゃなかったら、この世界は終わっていたいかもだよ。
――結果的に、決意できたので問題ないです。
……そうなんだけど。
……はぁ。徳の玉と言い合ってもしょうがないか。
とりあえず、徳を溜めるっていうのは、そんな仕組みがあるっていうことだね。そう言われれば、思い当たる節があるかも?
女神のお仕事で、転生をさせていた時には、前世の職業とかを確認してたりしたんだよ。悪いことをしてそうな人は、とっても徳が低いんだ。
良さそうなことをしている人は徳が高かったけど、ずば抜けて高かったのは、教師の人だったの。職業が教師じゃなくても、人の上に立って教えるような立場の人が、すっごく徳が高い傾向にあったんだよね。
きっと、徳の玉が説明してくれた通りっていうことだったのかも。
良い行いをしているだけじゃなくて、その行いを多くの人達に広げていくっていうことで、それが巡り巡って、自分に返ってきているっていうことなんだね。
――ご名答です。
――ですが、その内容は、既に神界で教えられている内容のはずです。
――しっかりと覚えておいてください。
……えっと。はい。
……やっぱり、この徳の玉、先輩みたいに説教してくるんだよなぁ。
なんだか、気を抜くと、毎回説教してくる気がするし。もう……。
そうは言っても、私は言い返せる立場じゃないけれどもさ。
とりあえず、素直に聞き入れるしかないわけで。
ふと気が付くと、段々と歩調が速くなっていることに気付いた。
前を歩く少年は私のカバンを持っているのに足取りが軽い。
元気に歩くものだから、カバンが上下に揺れている。カバンのポケット部分に入っている徳の玉も、黄色く光りながら、上下にゆさゆさと揺れている。
徳の玉は、まだ言い足りないのか、お説教ついでにいろいろと言ってくる。
――既に神界で教えられたことの復習になりますが、あらためて教えます。
――徳の高さとは、その人間の行いに対しても溜まりますけれども。
――その人間が作り出した物による効果によっても溜めることができます。
――良いものを作って、それを人の役に立てたりしても徳が溜まります。
――例えば、砂漠に井戸を掘った人は、その井戸が使われるたびに徳を溜めることができます。
徳の玉は、少年の元気な歩きによって、ぐわんぐわんと揺さぶられながらだから、声も揺れてしまっている。
念話だったら、揺れに強くあって欲しいんだけどね。揺れに弱いのは、徳の玉の弱点だね。はは……。
良いこと言ってた気もするけど、何を言っているか、あんまり聞き取れないや。とりあえず、良い行いを広めていけば良いっていうことなのかな。
私が頑張って徳ポイントを溜めるっていうよりも、周りの人が頑張ってくれることで徳ポイントを溜目る方が効率的なのかもだね。大量の教え子がいれば、それができる。
確かに、いまのところ、私がやったことなんて大したことないけど、徳が溜まっているのも事実だし。そんなことでも、多くの子たちが徳ポイントを溜めて行ってくれたら、きっとマイナスポイントも解消できるね。
私は、この世界の人たちに助けてもらっているっていうところが、多いかもしれないけれども。そうだとしても、ちょっとでも私も協力して、どうにか徳を溜めていこう。
……その考え方がせこいのかもしれないけどね。私は私にできることしかできないからさ。
こんな徳のポイントの仕組みとか、徳の玉自体のことを直接少年に言っちゃいたい気もするけど。やっぱり色々まずいことが起きそうだから、そこは我慢しないとかな。
私の性格上、黙ってるのって結構難しいんだけれども、頑張ろう。
◇
とりあえず、優しい少年の善行に感謝をしつつ、森の入り口を目指して歩を進めていく。私の荷物を少年が持っていてくれているので、軽くなった身体で、少年の隣まで追いつく。
そして、少年の方に手を置いて、話しかける。
「少年、ありがとうね。とっても助かるよ。私の荷物を持ってもらったら、休憩も少なくて行けそうだよ!」
「それなら良かった。お姉ちゃんが元気そうで」
「そっかそっか。やったね。そうしたらこのまま進めるところまで行っちゃおう!」
「おー!」
なかなか難しいことも多いけど、頑張ろう。
私一人が背負うわけじゃないっていうことだけも分かったから、少しだけ気も楽になったかな。
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