第18話 少年の徳

 街へ向かって歩き出して、お昼を過ぎたけれど、一向に森の出口は見えない状況だった。森の中は、同じような景色が延々と続いている。地図を見ても、どこまで来たか良くわからない。

 のんびりした午後の日差しっていうのは、なんだか気持ちがいいけれども、段々と足に疲労がたまって来てる気がする。終わりがわからない道を歩いているって辛いよね。


 なんだか、残業の終わりが見えないのと似てる気がするよ。いつになったら終われるんだよーっていう。あれって、やっぱり地獄だったよね。神界にいるのに、「ここは地獄だー」って言ってたし。

 それと同じ雰囲気を感じてくるな……。

 良い天気だけど、ここはデスロードだよ……。ここはデスロード……。



「お姉ちゃん、大丈夫? また、ちょっと休憩する?」



 神界での残業が多い時も、休憩が全然なくってね。要領が悪かったから、ずっと仕事やり続けてて。けど、そんな時に、先輩がフォローしてくれていたなー……。今考えたら、意外と先輩って優しかったのかもしれないな。なんだかんだ、私が仕事が出来ていたわけだもんね。



「……おーい、お姉ちゃんー? 歩きながら気を失ってるの? 本当に大丈夫? やっぱりちょっと休もうね!」



 そうそう、こんな感じで。

 私のことを無理矢理にでも休憩させてくれて、私の体調を気にしてくれてたんだよね。無理矢理私の仕事をストップ奪い取って、それで落ち着かせてくれて……。


 その場に座らされると、暗い視界にスッと光が灯ってきた。私の前に、少年の顔が現れた。



「お姉ちゃん、ちょっと休憩だよ!」


「……あ、あれ? もう休憩の時間か。ありがとう」



「お姉ちゃん、相当しんどそうだね、今度からもうちょっと細かく休憩取ろうか!」



 そうそう、神界でも先輩が同じようなことを言ってくれてて……。


 ……って。今気を遣ってくれてるのって、先輩じゃなくて、少年じゃん! ダメだ、ダメだ!

 今の私が少年に励まされてどうするのよ!

 私の方から少年を励まさないとダメだよ!



「私は大丈夫だよ! 君こそ大丈夫?」


「僕は全然平気! なんだか身体が軽いくらいだよ!」



 私がリードしようと思っても、少年の方がとても元気。なんで、みんな私よりも仕事が出来る感じなんだろうー……。

 くー……。



「僕がお姉ちゃんの荷物を持ってあげるよ! その方が早く歩けそうでしょ?」


「い、いや、そんなことしてもらっちゃダメだよ……」



「いいから、いいから!」


 少年は、私の荷物を受け取ると、片手で担いで見せてくれた。



「これを僕が持ってたら、もう少し歩けそう?」


 そう言って、軽快に歩き出す。

 なんでそんなに軽々と持って歩けるんだろう……? 小柄な少年は、筋肉がすごい付いているってわけでもないし。もしかすると、良いアビリティでもついてるのかな?


 それか、良いところの育ちのような服を着ているから、もしかしたら衣服にバフ能力でもついているのかもしれない。本当に、ラクそうに歩いている。何が作用しているかはわからないけれども、私にもそんな能力があればなぁ……。


 私も能力が使える世に、どうにか臨時的な徳ポイントでも稼ぎたいよう……。



 本当はね、私がどうにかしないとなんだよ。お姉さんなわけだし。

 女神の力でも使えれば、距離とか分かったりするんだけどな。遠くを見渡せたりするんだよ。今までの私って、実はすごい能力持ってたんだよね。

 人間になってわかる、女神様のすごさっていうやつだよね。

 この状況を、どうにか打開したいよー……。うぅー……。


 少年はカバンを軽々持ち上げながら、笑いかけてくれた。



「なんでも一人で背負い込まなくても大丈夫だよ! 協力し合って頑張ろう! 困ったときは、僕が助けてあげるからね!」


「うん。本当、君には感謝しかないよ……」



 ――ティロリロリン。

 ――少年の行動により、徳が溜まりました。



 ……ん?……今の声は、徳の玉の声?

 徳の玉はカバンの中に入っているから、今少年が持っているはず。少年は、カバンを持ってゆっくりと歩き始めている。何も気にしていないようだけれども、カバンの玉が入っている箇所が黄色く光っている。


 ……っていうことは、今の声は聞き間違えじゃなかったのかな?……徳が溜まったって言った?



 少年が持っているカバンが光って、徳の玉が答えてくれる。

 私は、少年の歩く後ろについていきながら、光る玉と話をする。



 ――はい。徳が溜まりました。


 ――お知らせです。

 ――少年による徳ポイントの計上を開始しました。



 ……いやいや、待って待って。

 私が徳を溜めないといけないんじゃないの?



 ――答えは、否です。

 ――徳を溜めるのは、本人でなくても構わないです。


 ……そうなの? それってどういうこと?



 ――徳の玉に登録された対象人物が、良い行いをすることによって徳が溜まります。

 ――少年は既に登録されているため、良い行いをするたびに徳が溜まります。



 ……ほぇほぇ? なにそれ。その機能って、すごいじゃん!

 ……徳の玉ってそんな効果があったんだ。じゃあ、色んな人を登録したら、徳が一気に溜まったりするのかな?


 ――答えは、否です。

 ――徳の玉の所有者から、直接教育を受けた人物だけが登録を行えます。

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