第16話 街への旅立ち

「そいじゃー、準備は出来たかの?」

「はいっ!」


 私から「はい」と元気よく返事してみたものの……。

 身一つ、徳の玉一つでこの世界に飛ばされた私にとって、用意するような荷物なんて言うものは無いわけで。そもそも準備する必要が何もなかったんだよね。


 私の代わりに、おばあさんが色々と準備をしてくれていた。

 おばあさんの部屋で、なにやらいそいそと準備に励んでいたようだった。気付いたら、それなりの荷物が出来上がっていたというのが今の状況。

 おばあさんは、楽しそうにして私に話しかけてきた。



「ほっほっほー。準備できたぞい! この荷物の中に、わしゃーの昔の服をいっぱい詰めておいたからの!」


「は、はい。ありがとうございます。服が詰まってるんですか?」



「そうじゃそうじゃ。街を歩く者を見ると、みーーんなオシャレに見えるからの。それにも負けないくらい、オシャレな服をいっぱい詰めておいたぞい! これでお前様もオシャレさんじゃ!」


 おばあさんはウキウキと言ってくるけれども。私は先生になるための届け出を出しに行くっていうだけじゃないのかな?

 そんなにオシャレをするっていう必要があるのだろうか……?

 おばあさんの話を聞いていると、おじいさんが慌てて話に割り込んできた。



「も、もしかしてっ! ばあさまの若かりし頃の、セクシー衣装なんかも入っておるわけかの? あ、あのわしゃーのお気に入りのやつ……」


「ほっほっほ! あの服も入れといたのじゃ! やっぱり服っていうのは、似合う子に着てもらってこそじゃろ!この子に着てもらうのが、服にとっても本望だと思うてのぉ。あらかたこの荷物に詰め込んでやったわい!」



「そ、そんなぁー……。気持ちを改めてくれないかのぉー……。あれだけは……」


「ほっほっほ。そんな好きだったのかぇ? とは言ってものぉー?」


 おじさんは、おばあさんに止めてくれーって一生懸命にお願いをしているけれども……。

 もし、そんなセクシー衣装がこの荷物に入っているのであれば、私からも一生懸命お願いして、持っていくのを止めたいところだけれども……。

 おばあさんは、私に向かってウィンクをしてくる。



「ほっほ! 不安な顔をせんでも大丈夫じゃよぉ! お前様は、とても別嬪べっぴんさんじゃからのぉ! 街でどんな誘いがあるかもわからんからのぉ! ほっほっほ!」


「それは、そうかもしれんがのぉ。わしゃも、ばあさまと出会ったのは、街でのことじゃったからのぉー。懐かしいのぉー。ばあさまはその時から、別嬪べっぴんさんでのぉ」


「じいさまったらー……」



 うーん。なんだかんだ、ずーーっとおじいいさんとおばあさんはイチャイチャしているよ。

 こんな状況は、私がこの家に来る前からずーーっとこんな感じだったんだろうなと想像がつく。

 幸せそうだから、もう放っておこうかな……。


 少し目線を下におろすと、少年が視界に入った。目が合うと私の方に寄ってきた。



「お姉ちゃん! 僕も準備ばっちりだよ!」


 そう言ってくる少年についても、特に先ほどと変わったところは見られなかった。この子も元々荷物を持っていなかったからね。何も持たずに家の前に倒れていたわけだから。

 けど、少年の傍らには大きなリュックがあった。


「これね、おじいさんが僕の荷物を用意してくれたんだ!」


 中身は何が入っているんだろうというくらい大きな荷物。おばあさんの用意してくれたものが衣服ばかりだとすると、少年側に入っているのもなんとなく想像が付くような気がする。



「この荷物の中には、街に行くための地図や、食糧なんかも入れてくれたんだって」


「おぉーー! おじいさんは、しっかりと必要なものを入れてくれているんですね! これで一安心です。食料とか無いと大変ですしね」


 私の荷物はどうしようかなと思うけれども。

 とりあえずおばあさんの好意を無駄にできないし、持っていくことにしようかな……。何があるかわからないって言ってたし。きっと何かの役には立つのかな?

 この場でカバンの中身を出して、置いてくなんてことしたら、なんだか不義理な気もするし……。

 とりあえずカバンを背負ってみるが、案の定重かった。


 おばあさんが、おじいさんとのイチャイチャを切り上げて私に話しかけてくる。



「そうじゃそうじゃ。一番大事な先生の許可をもらうためにすることは、ちゃんとメモに書いておいたからのぉ! 用意したメモがカバンに入っておるから、街に着いたらそこに書いてある所に行くと良いぞよ」


「は、はい! そうです。それが一番大事なところですよね」


 おじいさんも、少し真面目な顔になって話に加わってくる。


「うんうん。わしゃーの古い付き合いの役人がいるからの。そいつに対して手紙も書いておる。それは、少年の方のカバンに入れてあるからの。ついたら渡してやってくれ。そいつが先生になる手助けをしてくれるはずじゃ」


「はいっ!」


 おじいさんとおばあさんは、うんうんと頷いてくれた。


「どうにか頑張って、先生の許可をもらってくるのじゃぞ! 遠くからわしゃーたちも応援しておるぞ!」

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