第15話 先生になる宣言!

「……君が、私を助けてくれるの?」


「うん、僕も協力するよ!」



 少年は、自分の記憶が無くなっているというのに。そんな状態なのに私のことを助けてくれるって言ってくれている。少年の顔は、冗談を言うような顔じゃなかった。真面目な顔をして、私を見つめていた。



「あ、ありがとう……。君も大変な状況なのに……」


「うん! 僕は大丈夫だよ! 記憶なんて無くても、目の前で大変そうにしているお姉ちゃんを助けるのが先決だって思うもん!」



 少年が差し伸べてくれた手は、私の手を包んだ。少年は、自らもしゃがんで、私と同じ目線になってくれた。両手で私の手を包んでくれている少年。少年の手に握られると、なんだか心が癒される気がする。温かい手が心地よい。



「お姉ちゃんは、もう既に僕の先生だよ!」


「……うん。ありがとう」



 協力してくれるのは、すごく嬉しいことだって思う。そうなんだけれども、本当に悩んでいるのは、先生になるっていうことじゃないんだよね……。

 このまま、徳が溜まらない状態だと、大量虐殺の犯人になってしまうかもしれないっていうこと。最悪の場合は、この世界を滅ぼしてしまうっていうことなんだよ……。

 そんなことを正直に言えるわけも無いし……。



「ねっ! だから、お姉ちゃん元気出して! 立派な先生になれるよ!」


 ううぅー……。こんなに純粋な瞳で見つめてくる少年なのに……。そんな子を騙している気分になって、申し訳なくなっちゃうよ。

 私が答えないものだから、少年はさらに強く、私の手を握ってくれた。そうすることで、私の手に持っていた徳の玉に少年も触れる形になった。



 ――わたくし徳の玉に触れた人間を検知しました。

 ――新しい人間が登録されます。


 ……えっ? なになに? また、徳の玉の誤作動なの?



 ――徳のポイントが足りないため、分析ができません。

 ――徳のポイントを補充してください。


 ……ほぇ? 分析ってなに? ポイントが足りないっていうのは、分かっているんだけれども……。



 ――はい。徳のポイントがあれば、人間の分析が行えます。

 ――性別、年齢、名前などの基本情報。その他、ステータスや、スキル情報なども分析が行えます。

 ――ただし、徳のポイントが足りないため、分析ができません。


 ……な、なるほど。もしそうであれば、徳ポイントが溜まれば、この子のこともわかるっていうことか。その機能は初めて知ったけれども。徳を溜めると、なんでもできそうっていうことなんだね。

 そういう便利機能があるのは、わかってきたんですけども。徳を溜めないとやっぱり何にもできないんだよね。



「お姉ちゃん、やっぱり顔色が良く無いよ、大丈夫? まずは、ご飯でも食べて元気を出そう!」


「あらあら、お前様、どうしたのじゃ? 気分でも悪いのかえ?」


「大丈夫かのぉ? 今までそんな事なかったのに、やっぱりどこか悪いのかえ?」



 おじいさんとおばあさんも、話を切り上げて私のところへと来てくれた。

 みんな私を心配してくれている。私が端の方で小さくうずくまってるからか……。

 そうだよね。そんな人がいたら心配しちゃうよね。


 なんだか、昔のことを思い出しちゃうな。

 女神の仕事している時も、そんなことがあったりしたんだよ。それがあるたびに、先輩が慰めに来てくれていたっけ……。「失敗なんて何回したっていいんだよ」とか、「前に進んでいれば、いつかうまくいくよ」って、励ましてくれたりして。

 その時の先輩は、とても優しい顔をしていた。


 今見えるみんなの顔も、同じ顔をしている。心配しているんだけれども、その奥には、とても優しい心が感じられる。



 ……そうだとしたら。

 私は、立ち止まってる場合じゃないね。

 この世界もだし、もともとの神界も救わなきゃいけないわけだしね。


 私が早とちりしたり、ドジをやらかしちゃったせいなんだから。しっかりと責任を取りましょう!

 そうじゃないと、美味しいご飯も食べれないし!



「……皆さん、心配してくれてありがとうございます」



 私が話し始めると、おじいさんとおばあさんも動きを止めて、私の言葉を待ってくれているようだった。少年は私の手を掴んでくれたので、それをそっと離す。

 私は、少年に微笑みかける。その後、お祖父さんおばあさんの方を向いて、微笑みかける。



「私、先生になるために、頑張ります!!」



 私の言葉に、おじいさんおばあさんは、目をぱちくりさせて驚いていたが、すぐに嬉しそうな顔になった。少年も、嬉しそうに笑っていた。



「おぉぉーー! そうかそうか。先生になると決めてくれたか!」


「嬉しいことですじゃ、わしゃーたちの跡継ぎが出来たようなものですじゃ!」


 ――ティロリン。

 ――おじいさんおばあさんに孝行したため、徳が溜まりました。



「お姉ちゃん! 僕も全力で応援するからねっ! 頑張ろうっ!」


 ――ティロリン。

 ――少年の心を前向きにしたため、徳が溜まりました。



 みんな、私が先生をやるっていうのを、喜んでくれているってことだね。

 皆が応援してくれるなら、私はそれに応えよう。

 例え、それがちょっとの徳だとしても。少しずつでも、みんなが喜んでくれることをして、徳を溜めていこう。



「私が先生になって。それで、みんなを幸せにして。この世界を救ってみせます!」

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