第14話 徳の玉のペナルティ
「なるほど、そうかもしれないですねぇ、じいさま。この子なら、良い先生になってくれそうな気がしますじゃ!」
「そうじゃろ、そうじゃろ。ほっほっほー!」
「い、いや。私は、そんなそんな……」
いきなり、「先生になったらいい」って言われたけども……。
否定しようと思って、割り込みたいのだけれども、おじいさんおばあさんは隙を与えてくれない。二人で楽しそうに和気あいあいと話している。
「そうしたら、やっぱり役所に届け出くらいは出しておいた方がよいのかのぉ?」
「確かにそうじゃな。先生をやるには許可がいるしのぉ。わしゃーが見ているところで、無許可で教育するのも良くないかのぉ」
「じゃあ、街まで行って許可申請をして……」
なんだか、おじいさんとおばあさんは、私が先生にするっていうことで話を進めているわね。私は、先生やるとは言っていないんですけれども。二人が仲が良いからか、話が弾んでどんどん進んでいってしまう。
お互いの言うことが分かっているかのように、あれも必要だ、これも必要だと言って、どんどん準備が整っている気がする。
「そうしたら、やっぱり、ばあさまと一緒で、先生のローブを着るのが良いじゃろ。ありゃー、わしゃー、大好きじゃった」
「あぁ、あのローブのことですね。けど、あれはですね、ちょっと虫に食われてしまったのじゃ……」
「そ、そうなのか、わしゃーあのローブを着とるばあさまが、この世で一番くらい好きだったのじゃ! あれは絶対に無くちゃーいかんぞい!」
「もう、じいさまったら。わしゃーのこと好きすぎるのじゃ」
なんだか、いちゃいちゃと思い出話とかしているけれども……。
こういうところで話を脱線してくれれば良いものの。おじいさんとおばあさんが先生だったっていうことのおかげなのか、少し話を脱線して、いちゃいちゃしても、しばらくすると、しっかりと話を本筋に戻してくるんだよ。
すごいしゃべりの技能だと思うけれども。話が進んで行っちゃうんだよね。これは、高確率で先生をやらされることになるよ。私はできないよー……。
――ティロリン。お知らせです。
あ、はい? たまに話しかけてくるのね、徳の玉さん。ちょっと待ってね。
楽しそうに話すおじいさんおばあさんを邪魔しないように、私は席を立って少し離れた所へと行く。話に夢中になる二人には、私の行動は気づいていないようだった。
私は、二人に背を向けるようにして、徳の玉を取り出す。
徳の玉からの『お知らせ』っていうのは、初めてだけれども、何の話があるんだろう? 説明書とかには書いてなかったと思うんだけどな?
そういう大事な時は、ちゃんと玉を見つめながら話さないとだよね。
どんなお知らせが表示されるかわからないし。良いことだといいんだけれども……。
あらためて、問いかけてみる。
徳の玉さん。
お知らせって、なんですか?
徳の玉は、光って答えてくれる。
――ただいま、徳のポイントが低い状態です。
うん。知ってる知ってる。
そこの少年を助ける時にいっぱい使っちゃったからね。使いすぎちゃってマイナスになっちゃったんだよ。
――はい。このまま、徳のポイントがマイナスの状態だと、ペナルティが発生し始めます。
えっ? なになに、その情報?
――ペナルティとして、わたくし徳の玉は、徳を求めて、周りの徳を吸収し始めます。
――周りにいる者の能力を奪い取っていきます。
――吸った能力を、徳ポイントに変換して、徳の玉に溜めていきます。
は、はい? そんな動き、初めて聞いたけれども……。
なんだか怖いな。強制的なのかな?
――近くの徳を集めても、徳ポイントのマイナスが解消されない場合は、強制的な転生が発生します。
えぇえぇ!? なにそれ?
――強制転生の際には、対象となった生命は、この世界から消滅します。
――そして、神界に送られることになります。
――そこで、『魂』を徳ポイントへと変えていきます。
――一つの対象で足りない場合は、その範囲を広げていきます。
――足りない場合には、最悪の場合、この世界ごと消滅させることとなります。
……いやいやいやいや!! そんなふうに動くの?! 人を殺しているようなものじゃん。っていうか、世界そのものを滅ぼすの? そんな大変なことが起こっちゃうの?
――なので、ポイントを溜めてください。
――それでしか、防ぐことができません。
……確かに、そんなこと起こっちゃうなら、ポイント溜めなきゃいけないよね。
私が、少年を助けようとしたばっかりに、この世界が滅びちゃうかもしれないのか。どうしたら良いんだろう。
先生やるやらないとか、そんなの微々たる問題だよ。うぅー……。
おじいさんたちに親切にしても、ポイントがもらえるけれども。それくらいのポイントじゃ、全然足りないよね、このマイナスの値は……。
どうしよう……。
「……おねえちゃん、どうしたの? なんだか顔色が悪いよ?」
「……え、あ、うん。私のこと、だよね? 顔色悪くなっちゃってるかな。はは」
「そうだよ。お姉ちゃんだよ? 食べてる途中で席立っちゃうし。それって駄目なことだよ?」
「う、うん。そうだよね。確かにその通りだよね。さっきまで、私が教えていたのに、君から教えてもらうことになるなんてね」
「お姉ちゃんは、そんなに先生やるのが嫌なの?」
「そういうわけじゃないんだけどね。今はもっと重大な……」
「僕、お姉ちゃんが教えてくれて、嬉しかったよ! 今まであまり叱られたっていう感覚が無かったもん」
嬉しそうに話す少年は、しゃがんでいる私に手を差し伸べてくれた。
「お姉ちゃんなら、できるよ! 僕も精一杯協力するよ!」
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