第12話 おじいさんは昔

 少年からの回答に、おじいさんも満足そうにうなずいていた。


「そうかそうか、子供なのにお礼が言えるなんて、えらいのぉ」


「僕っていうよりも、姉ちゃんが教えてくれたおかげだよ。姉ちゃんありがとう」



 ――ティロリロリン。

 ――おじいさんが癒されたことで、徳が溜まりました。


 そうだよね。このおじいさんは、本当に優しいよ。

 どんなことにでも喜んでくれて。


 見知らぬ子供が、お礼を言えるようになったっていうだけなんだよ。

 けど、おじいさんにとっては、やっぱり孫みたいなものなのかな。嬉しそうにおじいさんは、少年を撫でていた。幸せそうだから良いか。


 この子を叱ったことでポイント下がっちゃったけど、これでプラスマイナスゼロだね。よかったよかった。



 ――ティロリロリン。

 ――少年に道徳を教えてあげたことで、徳が溜まりました。

 ――少年が喜んだことで、徳が溜まりました。



 ……え? うそうそ? なんで?


 慌てて後ろを向いて、玉を取り出して、光っている色を確認する。

 徳が溜まった時に見える、黄色に光っていた。

 やっぱり徳が溜まっているっていうことだ。


 なんで、どうして?

 さっき叱っちゃったから下がったんじゃないの?



 ――今言った通りです。

 ――少年の誤った行動を正してあげることが徳に繋がりました。

 ――とても良い行いです。



 ……は、はぁ。

 良くわからないけれども、そういうことなのね?


 依然として、膨大なマイナスの数値が見えるけれども。とりあえずは、ポイントが溜まったという事実は嬉しい。私自身も、なんだか幸せな気持ちになれているし、この子のおかげかな。

 取り出した玉は、こっそりとポケットへとしまった。玉をしまった流れで、少年の頭に手を置いて撫でる。



「ありがとう!」


「ん? なんで俺がお礼を言われるんだ? 何にもしてないぞ?」



「うん。そうなんだけどね。それでもお礼を言いたくなったのよ!」


「姉ちゃんって、良くわからないな?」



「ふふ。良く言われるー」



 おじいさんがにっこりと微笑みながら、こちらを見ている。

 と思ったら、おじいさんのお腹がグーッと鳴った。

 おじいさんは顔を少し赤くして、恥ずかしそうに斜め上の方を向いてごまかしていた。



「そうじゃよ。こんなところで話していないで。元気になったことだし、朝飯でも食べようぞよ!」


「そうですよね、そうしましょうー!私お腹ペコペコですよー!」


「僕もペコペコだよ!」



 三人で顔を見合わせると、ともに立ち上がる。

 少年が少しふらついたので、私は少年の手を取ってあげた。



「まだ、病み上がりだからね、ゆっくり歩いていこうか?」


「ありがとう、お姉ちゃん」


「ほっほっほ。良いお姉ちゃんじゃのぉ! 見ていて、和むわい」



 ――ティロリロリン。


 ふふ。また鳴った。

 嬉しいけど、徳の玉、音声をミュートにして欲しいんだよね。

 そんな能力も付与できないほどに、ポイントがなくなったわけだけど。

 とほほだよ……。



 ◇



 家に入ると、おばあさんが食事の準備をしていた。

 リビングには、椅子が三つ、皿が三つ並べられていた。皿の上に乗せられているのは、焼きあがったばかりのパンと、森で取ったであろう山菜のサラダ。裏で買っている鶏の卵で作った卵焼き。全部が美味しそうだった。



「皆様、朝ごはんの準備はできているぞよ。早く座って食べましょう。って、その子は誰じゃ?」


 おばあさんは、少年の存在にすぐに気づいた。少し驚いた様子はしたが、単純に疑問が沸いただけのような言い方だった。



「ばあさま、この子もな、家が分からなくなってしまった迷子のようなのじゃ。とりあえず怪我は無いようじゃが、まずご飯を食べさせてやりたくての」


「そうなのですね、じいさま。わかりましたじゃ。先にわしゃーの分を食べているといいぞえ。追加で作りますからのぉ」



 おばあさんは抵抗なく受け入れたようだった。あまり驚かないところを見ると、このあたりに子供が迷い込むっていうのは、日常茶飯事なのかな?

 おじいさんも、そんなに驚いてなさそうだったし。

 不思議に思っていると、少年は我先にと席に着いた。


「おぉ! これは美味しそうだぞっ! 食べていいのか!」


「いいけれども……」


 まただよなー……。

 おばあさんの好意で、先に食べさせてもらえるっていうのに。それをこの子は分かっていないんだろう。まったくもう。



「君? さっきも教えてあげたでしょ? おばあさんが食事を作ってくれたんだよ。そして、そのおばあさんは、君が来たことで追加で作らなきゃいけなくなったし、おばあさんが食べ始めるのが遅れるわけよ?」


「うん?」



「そういう時に、おばあさんに言うことあるでしょ? さっき、おじいさんにいたみたいに」


 少年は、はっとした顔をした。

 言えばわかるから、素直な子なんだよね。悪気があるわけでもなくて、ただ単にそういう習慣が無かっただけという風に見える。だとしたら、私がちゃんと教えてあげなきゃだね。



「ばあちゃん、ありがとう!」


「うん、よしよし!」


 私は、少年の頭を撫でてあげた。

 サラサラの髪をしている少年。今までどんな良い生活をしていたのかが伺い知れる。



「ほっほっほ、なんだか良いのぉ。昔のわしゃとか、ばあさんがやっていたことを思い出すのぉ」


 おじいさんは昔を思い出して楽しそうにしゃべっている。

 なにをやっていたんだろう? 自分たちの子供に対してっていうことなのかな?


「おじいさんたちの子供に対して、こんな感じで教えていたってことですか? お二人の子供なら、良い子に育ちそうですけれども」


 おじいさんは首を横に振って答えてくれた。



「いんや、わしゃらは昔、学校の先生をやっていたのじゃ」


「えぇーー!? 学校ですかっ!?」

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