第11話 初教育!
「お前様? いきなり大声を出して、どうしたのじゃ?」
「お、お姉さん、どうしたんですか?」
おじいさんと、子供、二人から心配そうな顔を向けられた。
そんな私は、多分今目が泳いでいる。
だって、こんな顔を向けられたら、どこを向いたらいいのかわからないし……。何もない空の方向を向くしかないよぉ……。
「い、いえー……。大丈夫なのかなーって、驚いちゃったんですよ。ははは……」
それよりもだよ。せっかく徳ポイントが溜まっていたのにさ、全部使っちゃったってこと? そんなに大きな怪我だったってことなのかなぁ? あとでごっそりと使おうって思ってたのに……。何もできなくなっちゃったよ……。
「なんだか落ち込んでるけど、大丈夫だよ、お姉さん! 僕、特にどこも痛くも無いし!」
「そ、そう……。それなら良かったよ」
あんなに溜まってたポイントを使いきっちゃうなんて、何かおかしい気もするけど……。あ、もしかして、この子の持病とかも一緒に直しちゃったんじゃないのかな?
そうじゃないと、あのポイントが無くなるなんて考えられないし。
うーん。慌てて玉にお願いしたからなぁ。何もわからないな。
履歴とかって確認できないのかな?
――はい。残念ですが、その機能は私には備わっていません。
――本体のシステム側にログは溜まっていますが、そちらの参照権限はありません。
あっ……、答えてくれるんだ。
まぁ、そうですよね……。徳の玉って、主に先輩が管理していたからね。システムは完璧なんだよね。はぁ……。
「どうしたの? お姉さんの方こそ、大丈夫?」
「あ、私は大丈夫。とっても元気だよ、うん! なんと言ったって、君が治ったからね!」
私が元気を見せると、安心した顔をしてくれた。
うん、とりあえず、この子は治ったし。徳の玉のことも、バレずに済みそうでよかった。
私が自分に言い聞かせていると、おじいさんと子供は、二人で談笑し始めた。
「それにしても、こんな森の奥にいるなんてのぉ? 君は、どこから来たんじゃ?」
「うーん。わからないんだ。思い出せない……」
「そうか、そうか。思い出せないなら仕方ないのぉ。名前だけでも憶えてないかの?」
「それも、わからないや……」
「うーむ……」
この子。傷はなくて元気そうだけど、記憶が無いのは心配だよね。それでも不安そうな顔はしていないようだった。
なにか帰るための手がかりが分かればいいんだけれども。何か手掛かりが欲しいところだよね。
うーん。おじいさんが色々聞いても、何も覚えていないみたいだし。全部笑って答えてくれてるから、なんだか深刻に考えなくていい気がしてきちゃうけれども。
子供の方から笑って答えてくれた。
「まぁまぁ、二人とも。僕のことなんて、そんなに気にしないでいいよ!」
「そうはいってもじゃな一」
「大丈夫、大丈夫! おじいさんの住ませてもらって、三食しっかり食べさせてもらえれば良いよ! あとお小遣いをもらってさ」
元気そうで良いんだけれども、なんだか、要望が多い気がする?
「ちょっと、なんだか多くないですか……?」
「はっはっは。このくらいの歳と子は、そんなもんじゃろうて」
なんだか図々しいというか。
明るそうな顔色になり表情が分かるようになってきたけど、イタズラっぽい顔をしてると思うんだよな……。
神界にもイタズラが好きな神様がいたんだよ。ロキ様っていうんだけど。なんだか、その方と同じ表情をしているのよね。
おじいさんは優しそうな顔で話しかける。
「せっかく元気になったのだから、一緒に朝ごはんでも食べようかの!」
「じいちゃんが、どうしてもっていうなら、食べてやってもいいけど、美味しいの?」
……やっぱりこの物言い。
この子、かなり生意気ですよ。
記憶を失ってても、この生意気さ。悪いこと考えると徳が下がるっていうけど、これは我慢できないな。
ちょっと言ってやらないと、おじいさんにも悪いよ!
「ちょっと、君? ご飯を食べさせてくれるっていうんだから、そういう時は『ありがとう』でしょ!?」
「あっ? なんで? じいちゃんが、俺に食べさせたいっていうから、俺はじいちゃんの願いを聞いてやってるんだぞ?」
「はあぁーーっ!!!?」
――ティロルン。
徳が下がった音が聞こえる。
さっき、音声は切ったと思ったんだけど、状況が変わればまた鳴るのか。
けど、そんなことはどうだっていいよ。
これが、悪い行いって判断されようとも、徳が下がろうとも知らないんだけど。
この子には、しっかり教えてやらないと言われる方も気分が悪いし、回りまわって、この子のところにも悪い行いが回ってくるんだよ。感情的になっても伝わらないだろうから、一回深呼吸する。
「ふぅーーーー……。君さ。もうちょっと人の好意っていうものを感じよう?」
「なにそれ? どうやんの?」
リラックス、私、リラックス……。
一呼吸して、正面から見てみるけど、今はイタズラっぽい顔はしないで、真剣な顔で聞いているようだった。口はちょっと生意気そうだけれども、外と素直なのかもしれない?
本当にわかっていないだけなのかな?
そうだとしたら、頭ごなしに言わないで、しっかりと伝えてみよう。
「ご飯っていうのは、自動で出てくるものじゃなくて、誰かが手間暇かけて作ってくれるものなんだよ」
「うんうん。なるほどね? 僕の家では、勝手に出てきたような記憶があったからさ」
やっぱり高貴な家の子なのかもしれない。
けど、記憶も無いから確認できないし、今は全くそんなこと関係ないもんね。
「今日はおじいさんやおばあさんが、君のためにご飯をくれるってことなの。ありがたいことなの。有り難いっていうのは、言葉の通り、あることが難しいこと、つまり、滅多に無いくらい良いっていうことなの」
「うん? なんかお姉さんの話、長くて良くわからないけども?」
「っう! 話は昔からヘタなの! とりあえず、良いことをしてもらっているから、そこにはお礼をするべきっていうことっ!!」
「なるほど?」
「ちゃんと、おじいさんに向かって言うんだよ。ありがとうって!」
「なるほどなるほど、わかった!」
私が言うと、素直に聞いて、おじいさんの方に真面目な顔を向けた。
「じいちゃん! ご飯くれてありがと! 美味しく食べさせてください!」
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