第9話 倒れている子供

 ――ティロリン。


 ……はいはい。



 ――ティロリン。ティロリン。


 ……うぅ。もう少しだけ寝かせてよー。



 ――ティロリン。ティロリン。ティロリン。

 ――徳が溜まりました。徳が溜まりました。



 ……うーん。うるさいなぁ。


 枕の横に置いてある徳の玉を叩くと、音は止まった。

 なんだか、毎日この音で起こされるんだよね。もはや本当の目覚まし時計になったみたいだよ。おじいさんとおばあさんが、私のことを話題にあげると大体この音が鳴る。

 もはや、なんでそんなことで、徳が溜まるのかは分からないけれども。


 おばあさんが、私のために朝ご飯を作ってくれたり、私の新しい服を用意している時に鳴るんだよね。

 あの二人にとっては、孫ができたみたいで嬉しいっていうことかもしれないけれども、私のいないところで徳が溜まるっていうのが、謎仕様だよ……。


 ――ティロリン。

 ――徳が溜まりました。


「……うん。分かったのよ。その徳が溜まったのは。今日はもう鳴らないで良いです」


 ――かしこまりました。


 ……ふう。これで、今日一日は完全に止まるんだ。


 徳の玉を布団の上に置いたまま、起き上がって伸びをする。

 まぁ、徳の玉の音は、耳心地が良くてスッキリ起きれて良いんだけどね。もうちょっと寝ていたいなーっていう気持ちはあるんだよね。

 けど、おじいさんとおばあさんが起こしに来る前に起きてないとだよね。うん。

 勢いよく、布団から抜け出す。



 こんな感じで私はおじいさんとおばあさんの家で暮らしている。

 一緒の家に住んでいると言っても、おじいさんおばあさんがいるのとは別の小屋に、私は寝泊まりさせてもらっている。最初に行った家が母屋で、その裏にこの小屋がある。


 小屋といっても、おじいさんおばあさんが住んでいた家よりも、もっと広いところなんだ。

 昔、何かに使っていた小屋って聞いたけれども、一人で使うには、なんだかちょっと広い部屋になっているんだよね。机とか椅子もいっぱいあるみたいだし。謎の部屋なんだよね。


 掃除道具とかも置いてあって。自主的になんでもできるように、備え付けられていた。

 今度、しっかりとおじいさんに聞いてみようかな。今のところあまり詮索しないようにしてたからね。



 徳の玉が鳴ったっていうことは、私のご飯の準備がもうすぐできるっていうことを意味している。なので、布団を片付けて、おじいさんかおばあさんが呼びに来るまで部屋の片づけや掃除をするっていうのが毎日の日課になっている。

 住まわせてもらっているからね。毎日少しづつでも綺麗にしていくんだ。

 布団を片付けて、一つの机と、一つの椅子を綺麗に拭いたあたりで、大体いつも声がかかる。


 普通だったら、こういう作業が徳を高めるって思うんだけどね。

 掃除したりさ、見えないところでおじいさんおばあさんを思いやっているっていうのに。それに対しては徳が溜まらないんだよね。うーん。



 畳んだ布団の上に置いた徳の玉を、手に乗せて見てみる。

 けどやっぱり、ポイントは溜まっていないんだよねー……。

 やっぱり、掃除をしただけじゃダメなんだ。人に親切にするってことでしかポイントは溜まらないのかな?


 そうはいっても、おじいさんおばあさんに恩を返さないとだからね。



 そう思いながら掃除をしているけど、今日は全然呼びに来ないな……?

 二人に何かあったのかな?



 ――はい。外で、何かあったようです。


「……あっ。徳の玉さん。答えてくれて、ありがとう? 玉さんは、外の様子が分かるんだ?」



 ――はい。わかります。けれど、それよりも早く外へ行ってください。一刻を争います。


「えぇ、そうなんですかっ!? わかりました、すぐ行きます!」


 掃除してる場合じゃないし、すぐに助けに行かないと!

 掃除途中だった雑巾は、そのまま机に置いて、徳の玉はポケットに入れる。


 急いで、小屋の外に出ると、そこには倒れている子供がいた。その傍に、おじいさんが座って様子を見ている。

 私も急いで、その二人に駆け寄った。



「おじいさんっ! どうしたんですかっ?!」


「わ、わからんのじゃ……。わしゃも、今来たところでのぉ……。この子が倒れておったのじゃ」


 おじいさんも、どういった状況なのか分かっておらずに、うろたえていた。子供を少し揺すって声をかけているが、子供からの返事はない。子供は目をつむったまま、ぐったりとしていた。顔色もすごく悪い。玉の言ってた通り、本当に一刻を争うのかもしれない……。

 綺麗な茶色い髪をした男の子で、綺麗な身なりをしているように見える。こんな森の中で、どうしたんだろう……。


 そんなことよりも。

 この子のことは、何もわからないけれども、早く助けないと!



 ポケットから、玉の声が聞こえてくる。


 ――今持っているポイントを使えば助けることはできそうです。どうしますか。

 ――ちなみに今持っているポイントが……。



「そんなの、ポイントなんてどのくらい使うとか知らないよっ!! いくら使ってもいいから、早く助けてっ! 今すぐに!」



 ――本当によろしいですか?


「当たり前でしょ! 全部全部使っちゃって!」



 ――かしこまりました。

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