第8話 徳の玉の機能

 手に持った徳の玉は、金色に光っている。この徳の玉は、私の思ったことがそのまま徳の玉に伝わっているらしい。そんな機能ってあったんだっけ……?


 ――そうです。思ったことがワタシに伝わるようになっており、話せるようになっています。


 なるほど? 私が使い方をわかってなかっただけか。最初からそうだったのかな?



 ――はい。説明書が付いていたのに、あなたが読まないからです。

 ――神界でもいつも言われてたのに、基本を守らないからですね。

 ――いつまで経っても改善しないから、こうなったっていうのに。


 ……あれ? この玉。ちょっと性格がキツくない? どことなく先輩の性格に似ている気もするし。



 ――ティルルン。


 ん? いつもと違う音が鳴った?

 いつも軽快な高い音が鳴るのに、なんだか低い音?



 ――悪い行いをしたため、ポイントが減りました。


 いやいやいやいや、悪い行いしてないよ!? なんでなんで!?



 ――人の陰口を言うのは、悪いことです。悪い行いをしたため、ポイントが減りました。


 ……そ、そんなこともあるの? せっかく溜まったポイントなのに。

 陰口っていっても、ちょっと考えていただけなのに。……っていうことは、悪いことを考えるだけでも、徳ポイントが減っていってしまうってこと?



 ――そうです、ご名答です。こちらは、女神らしくなるためのプログラム……。


 ん? プログラム?



 ――いえ、しっかりとポイントを溜めてください。人の陰口なんて考えずに、人に対して良いことを行ってください。


 まぁ、その通りだけどね。

 けどなぁ。うーん……。お説教されちゃってるよね……。

 なんだか、がみがみ言う先輩が傍にいるみたいだな……。


 ――ティルルン。

 ――悪い行いをしたため、ポイントが減りました。


 あっ……。また減っちゃったの?

 うぅ。先輩の玉……。


 今度先輩に会ったら、やっぱり何か言ってやらないと……。

 ……ってこういうのがダメなんだな。

 気を付けないとだね。



「お前様ー! ご飯が出来たぞい!」

「じいさまに手伝ってもらったから、すぐ出来たぞいっ!」


 いそいそと、おじいさんとおばあさんが食事を持ってきた。おじいさんの手に持っている大きいお皿には、サラダのように野菜が敷き詰められており、その上に今日取ってきた実だろうものが、切られて乗っけられていた。

 おばあさんが持つお皿の方には、美味しそうなパンが乗っていた。私の分だけではないのだろう、大きなパンが三つあった。取り分けるお皿もそれぞれ持っているようだった。

 一緒に食べるっていうことだね。


「おじいさん、おばあさん、ありがとうございます」


 私がお礼を言うと、おじいさんとおばあさんは顔を見合わせて頷いた。


「あぁ、早く食事を摂って、ゆっくり休むといいぞい」



 ◇



「いやー、お前様は意外と大食いじゃったのか。全部綺麗に食べてもらえて、わしゃたちも嬉しいぞい」

「そうですね。おじいいさん。私たちの若いころでも、こんなに食べれなかったと思いますじゃ」


 そう言って、二人とも驚いた顔をしていた。私は、昔から結構の大食いだったこともあったから、いっぱい食べちゃったけれども。

 おじいさんとおばあさんが、いっぱい食べて欲しそうに次々と料理を出してくるから、私もそれに答えようとして食べてただけなんだけどね。



「やっぱり、今までろくに食べれないでいたんじゃろうて。これで、お腹いっぱいかの?」


「はい。もう十分頂けました。ありがとうございます」



「ならよかった、よかった。食べ終わった後は、ゆっくり休むとええぞ」

「あぁ、そうだそうだ。お前様は、きっと住むところが無いじゃろうて。しばらくここに住むとよいぞい」


 おじいさんとおばあさんが、代わる代わる私のことを心配してくれる。どこまでも優しい二人だ。こんな人たちがいることに、少し驚きだよ。さぞ徳が高い人達なんだろうな。生まれ変わるとしたら、来世はすごく良い人生が待ってそうだね。

 おじいさんとおばあさんは、私の返事を期待して見てくる。きっと、一緒に住むっていうことが、この人たちの幸せに繋がるのかな……?

 私としては、迷惑をかけられないって思っちゃうけれども……。



 ――そうです。ご名答。一緒に暮らすことが、この人たちにとっての良いことです。


 あ……、玉が答えてくれた?

 そうだよね。この人たちにとって、良いことをするのがいいよね。



 ――はい。徳を溜めることが、あなたの使命です。


 まぁ、行くところも無いしね。

 この玉って、結構良いアドバイスをしてくれるのかもだね。ありがとう! 玉さん!



 ――はい。どういたしまして。



「どうしたお前様? にこにこ笑っているということは、良い方向で考えても良いのかの?」

「じいさまや、慌てるでないぞよ。今、この子は一生懸命考えているのじゃ」


 あ、二人がちょっと言い争う形になっちゃってる。玉さんと話している場合じゃなくて、早く返事をしなきゃだね。


「おじいさん、おばあさん。お気持ちすごく嬉しいです。ご提案頂いた通り、私をここに住まわせてください!」


 私が答えると、おじいさんとおばあさんの顔が、一気に明るくなった。


 ――ティロリロリン。

 ――ティロリロリン。


 ――おじいさんとおばあさんの心が癒されたので、徳が溜まりました。


「おじいさん、おばあさん、あらためてよろしくお願いします!」

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