第7話 徳の玉との会話

「はっはっは。やっぱり別嬪べっぴんさんじゃ」


「あ、ありがとうございます」



 茶色地のワンピースに、薄いケープを羽織る。この格好で街に行ったら、上級貴族に間違われそうな服装である。高貴な雰囲気を醸し出している。触り心地もすべすべで、肌にとても馴染む。

 これが、昔おばあさんが来ていた服らしい。


「どうしたのじゃ? その服が気に入らんのか?」


「い、いえ……。こんな素晴らしい服を着せてもらって、私はどうしたら良いのか……」



「そういう時は、素直にありがとうと貰っておけば良いのじゃよ。ほっほっほ!」


 おばあさんは優しい口調で言ってくれる。

 ただ、笑い方は少し豪快だ。声もちょっと大きめで、なんだか気を遣わなくても良いかもって気分にさせてくれる。曲がった腰のまま、天井の方へと顔を向けて、とても楽しそうに笑っている。



「そいじゃぁ、じいさまに見せに行きましょ。これだけ別嬪べっぴんさんじゃと、わしゃの若いころと、見間違えるかもしれないぞい!」


「えっと……、はい。わかりました……」


 おばあさんに背中を押されて、部屋を出る。

 こういう服って着たことがなくて、初めてするような格好。だから、ちょっと恥ずかしさもある。なんと言いますか、オシャレ過ぎて……。

 大きい家じゃないので、廊下を歩くとすぐにおじいさんがいるリビングまで着く。私が先頭でやってくると、案の定おじいさんは驚いてくれた。



「こりゃあ、たまげた! お前様は、若いころのばあさまに、そっくりじゃのぉ!! 別嬪べっぴんさんじゃ!!」



 ……あぁー、良かった。悪い方に見られなくて。

 おじいさんの反応を見ると、私はこの可愛い服が似合うって事だよね。へへ。褒められちゃった。


 褒められるというのは素直に嬉しい。

 神界だと、誰も褒めてくれなかったから。みんなそれぞれの仕事をしていて、あまり他人に関わらないんだよね。つながりが希薄っていうかさ。他人に興味が無いというかさ。

 こんな風に、服を着替えただけで驚いてくれるなんて、なんだか楽しいな。



「いえいえ、私なんて……全然ですよ」


 褒められ慣れてないから、なんて返事をしたものかと、あわあわと手を振っていると、後ろから楽しそうなおばあさんの声が聞こえて来た。



「ほっほっほーー! じいさま、わしゃのことを、そんなに褒めないで下さいな! 別嬪べっぴんだなんて……。人前ですぞ!」


 おばあさんは、楽しそうに微笑んでいる。その反応を見たおじいさんも、楽しそうに笑っている。


「いやいや、褒めているのは、この娘の方じゃよ。ばあさまは、ばあさまで……」


 おじいさんは、おばあさんを上から下まで往復して眺める。難しい顔をしながら少しだけ黙ったと思ったら、満足そうに頷いた。


「うんうん。ばあさまは、歳を重ねた今の方が可愛いぞい」


「もうっ!! じいさまったらぁーーー!」


 おばあさんは、おじいさんを軽くタッチするように叩いている。二人とも笑っているが、少し頬を赤らめて恥ずかしそうにも見える。


「「はっはっはーーーっ!」」


 楽しそうに笑うおじいさんと、おばあさん。本当にいい人たちなんだなぁ。そして、仲が良いんだろうな。長年連れ添ったという雰囲気がすごく出てる。幸せそうだなぁ……。



 ――ティロリロリン。

 ――ティロリロリン。



 あれっ……?

 また徳の玉が鳴ったのか……?

 今まで密かに溜まった分が一気に鳴ってるのか、今になって鳴りまくるし……。


 どうにか止まらないのかな?

 女神時代に使ってた目覚まし時計だって、ボタン押せば止まるんだよ。この玉の効果音は、どうすればいいっていうのよ……。


 ポチポチと叩いても止まらない。鳴ってる間は制御不能なのか、うんともすんとも言わない。



 ――ティロリロリン。

 ――ティロリロリン。


 ……はぁ。この徳の玉はどうしたものかな。せめて、効果音とか切れないの?



 ――はい。玉についての効果音を切りたいとのことですか?



「ええぇぇぇーーーっ!? しゃべったーーっ!?」


 私の驚いた声に、おじいさんとおばあさんはびっくりした顔をしていた。瞬き多めに私の方を見てくる。


「あ……、ごめんなさい……。ちょっと独り言です……」



 私の方が謝ったのに、おじいさんとおばあさんの方が申し訳なさそうな顔をして答えてくれた。


「お前様は、相当疲れているのかもしれないな。すまんな、着替えをさして楽しんでしまって……。昔のばあさまを思い出せて、とても楽しい思いをさせてもらったぞい」


「そんな、じいさまったら……。それよりも、すぐにご飯の支度をするから、ちょっと待っててくださいのぉー」


「わしゃも、手伝うぞい! お前様は、なにかとわしゃらの恩人かもしれんでのぉー! そこでゆっくり待っておれー」



 おじいさんとおばあさんは、二人ともそそくさと台所の方へと行ってしまった。なんだか、急がせてしまったようで申し訳ないけれども。とりあえず、私は席について徳の玉を眺める。




 この玉、心の中のつぶやきでも、話しかけられるってことかな?


 ――はい。そうです。私に何なりと、ご命令をください。

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