第3話 異世界転生

 うぅー……。

 私は今まで何をしてたんだっけかな……。


 なんだか身体が重いし、私はどうしたんだろう。



 あ、今は業務中!……業務中に寝ちゃったのか?

 そんなことは、今までに数回しかないんだけどな。大抵そういう時は、先輩に起こされるんだけどね。先輩に気付かれる前で良かった。

 とりあえず早く起きないと。


 寝起きだからか、身体がだるい気がするけども。いつまでも寝転がっているわけにもいかないから、状態を起き上がらせる。

 そこで気付いたが、地面には草が生い茂っているようだった。手に草が触れる感覚があった。気付けば、足にも同じ感覚がある。さわさわと草が私の足を撫でていく。

 上体を起こして、周りを見てみるけれども、鬱蒼とした森のようなところ。まったく見慣れない景色だった。

 先ほどまでは、女神の間での仕事をしていたと思ったのに。

 ここはどこ……?



 目を凝らしても、頭をひねってみても。全然思い出せない。


 あぁ、もしかすると、夢の中っていうことかな?

 夢の中では、よくわからない景色は良くあるからね。この景色は、私の前世の記憶なのかもしれない。

 こういう時は、ほっぺをつねると夢から覚めるんだ。


 よし! 先輩に注意される前に早く起きちゃおう。

 寝ぼけている私よ、夢の世界から目覚めなさいよーーー?



「……って、いったーーーいっっっ!!!」


 私の出した大きな声で、森の中にいた小動物がわさわさと音を立てて、逃げていったようだった。

 森の奥の方まで、私の声が響いていた。



「……いったいよー。すごいひりひりする。……あれ?……っていうことは、これは夢じゃないの?……私どうなったの?」


 頭をひねって考えると、うっすらと記憶が思い出される気がする。


 まず、私は、女神だったの。

 そこまでは記憶が抜けるわけなくて。神界でお仕事をして暮らしていたの。

 厳しくもあり、優しくもある先輩に指導されながら。


 仕事は大変だったけれども、不自由なく暮らしていたの。

 それで、さっきまでお仕事をしていて。いつも通り先輩に怒られながら。


 ……あ、そうか。思い出した。


「私、しくじっちゃったんだ。だから、追放されたのね」



 声に出してみると、虚しさが誇張されるようだった。

 異世界に人間として転生させられたんだ。


 女神だった私の『徳』を全部はぎとられたんだよ。よくよく自分の身体を見て見ると、みすぼらしい服を着ているし。奴隷服みたいな恰好。

 こんな森の中で、奴隷服で倒れていたなんて、どこかから逃げて来たみたいな風にしか見えないんですけども。私が神界から落とされてきた悲惨さがよく現れた服です。


 ……はぁ。先輩のセンスは抜群です。



 多分、私の『徳』を根こそぎとった上で、最低限の『徳』だけで済む衣服をくれたんだね。

 衣服を出すにも、『徳』を必要とするしね。

 ……みすぼらしい。


 こんな服装だとしたら、今まで使えた能力なんて、きっと使えないんだよね。

 目を凝らして周りを見渡しても、ただの森が広がっているだけだった。

 女神だった頃は、生物反応だけを検知できたりしたのにな……。


 全く何もわからない。

 モンスターがいるかさえも分からないよ。


 何の能力も無くなっちゃって。

 私どうなっちゃうんだろう。

 ここで生きていけるわけないよ。何か少しでも能力があれば……。


 私が倒れていたところに、一枚のメモが落ちている。

 女神だったころの先輩からの気遣いか。

 別れの言葉でも書いてあるのかな。



 ――女神だったあなたへ。

 ――神界は、かつてないほどのピンチに陥っています。

 ――あなたを追放してもまだ足りない」



 私、相当なことをやらかしてしまったみたいだな……。はは……。

 ど、そんなことになっちゃうなら、システム側で制御すべきだよね。

 私だけの責任じゃないと思うんだけどね。



 ――あなたのことだから、きっと反省の色も薄いことでしょう


 あ、ばれてる。先輩はなんでもお見通しだ……。



 ――現状、どうにか転生者から『徳』を多めに採取して、神界を回してるんだよ。

 ――だから、モブキャラがそっちにあふれる予定。


 なるほど。不作な時代の到来っていうことだね。



 ――けど、能力が無い人間ばかり増え続けると、いつか人間と魔族との均衡が崩れて大変なことになっちゃうから、いつまでも続けられないの



 あぁ、神界が搾取さくしゅし過ぎて、魔王が支配する世界が生まれちゃうっていうパターンだ。



 ――そういう事態は阻止したい。

 ――だから、下界に降りたあなたには、『徳』を集めて来なさい。

 ――そして定期的に、神界に『徳』を送ることを義務付けます


 ……ほぇ?

 ……私に野垂れ死ねっていうことじゃなくて、この世界でも働けということ?……どこまで厳しいんだか。



 ――そういうことで、『徳』を溜められる玉を渡しておきます。

 ――ルールとしては、定期的に神界に『徳』を送ってくること。

 ――それ以外は好きに使っていいからね



 好きに使っていいっていうと。『徳』を溜めれば、その分で自分に能力付与ができるようになるから、人助けでもなんでもして来いってことかな?



 ――追伸。

 ――神界は、私がなんとかしておくから。あなたは少し羽でも伸ばしておいで。



 ……先輩。もしかして、私のことを思ってくれているのか。

 一旦私が人間に堕ちたことでも、まかなえないって神界どれだけやらかしちゃったんだろ。私ってば。


 とりあえず、私もこの世界で頑張るしかないか!

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