第2話 神界システムエラー

 ――ウゥーーー!


 部屋の中に、警告音が鳴り響く。


 ……うーん、どうしたんだろうな?

 さっき私がやらかしたばっかりなのに、また誰かがやらかしたんだね?

 みんな気が抜けてるんじゃないかな。普通一日に一回警報が鳴ったら、そのあとはすごく気を引き締めるんだけどね。ダメな人もいるんだなぁ。



「はい、次の方どう……」


 そこまで言うと、勢いよく扉が開けられた。さっきも見た先輩の顔。息を切らせて、血相を変えて私を見ていた。



「ちょっと、あなた、何したの! ここの部屋から異常値が出てるわよ!」


「……ほぇ? 何を言っているんですか先輩。私は何もやってないですよ。警報音は私じゃないですよ?」


 先輩は、怖い顔のまま首をかしげて、部屋へと入ってくる。それに答えるように、私も首を捻りながら応戦する。



「私がドジだからって、そんなに連続してミスするなんてことあるわけ無いじゃないですか? 何かシステムが異常なんですよ。ね、先輩! ほら、顔直してくださいよ」


 傾けていた自分の首を真っすぐに戻して、先輩の首もよいしょと戻してあげる。よしよし。



「……確かに、連続でミスする女神なんて見たことないけれども」


 怖い顔を向けてくる先輩の顔が一瞬曇った。私だって、自分で作った一覧表を見て仕事していたわけですから、バッチリなのにな。そんな疑わなくたっていいのに。

 先輩は、先ほど開けた部屋のラックを開ける。モニターを引き出すけれども、先ほどまでの勢いはなかった。念のため確認しようということだろう。

 そうであれば、和やかにした雰囲気でチェックしたらいいのに。



「先輩、怖い顔はもうよしてくださいよ。私は、通常業務をまっとうしているところですよ? サボらず笑顔がモットーですので!」


「……いや、やっぱり、あなたミスってる?……というより、この値はなに?」



「何なんですか? 私は完璧に業務をこなしてる……、えっ? これなんですか?」


「私も初めて見たんだけど、この値ってなに……? 『徳』の値がマイナスになってる。しかも、エゲつない値……」



「システムエラーですかね?」


「とりあえず業務マニュアルに従って確認するけれども。あなたは、何の能力を与えたの?」



「私はですね、能力のラインナップにあるものから選んで、色々とつけていきましたけども。けど、ちゃんと転生者さんの『徳』の値を超えないような範囲ですよ? 値がチェックできるように、『確認表』も作って業務にあたってたんですよ?」


「……『確認表』? もしかして、その手に持っているもの? システムは使って確認していないってこと?」



「はいっ! 業務は頭の中に入れて、覚えるようにしているんです!」


 そろそろ、先輩も私の努力を認めてくれても良い気がしますけども。

 私が答えると、先輩は天を仰いだ。ここは天の国だから、これ以上の上の界は無いんだけれども。どこ見ているんだろう?



「ちょっと!! システムの見方を教えたじゃない! 一つの能力を与えたら、次の能力を与える場合は単純計算じゃないのよ!」


「……ほぇ?」



「『天は二物を与えず』って言葉があるでしょ! 一つだけなら才能を与えるのは容易なのよ。二つ以上あたえる場合は、それ相応の徳が必要なのよ!」


「……といいますと?」



「イケメンに生まれ変わりたいだけなら『徳』も少なく済むけれども、イケメンでなおかつお金持ちに生まれたいっていうことだと、二つ目の設定は必要となる『徳』が桁違いに上がるわけよ!」


「……ふ、ふむふむ?」



「それで、何の能力を与えたの? いっぱい与えてないわよね? 一つだけよね……?」



 先輩は私から目をそらして、カタカタとモニターを眺めながらシステムを捜査していった。


「イケメン、金持ち、火属性、水属性、雷属性、光、闇、それぞれの魔法の能力と、腕力、脚力。その他諸々……」


「えっと、それらが私が与えた能力なんですけれども……。つまり、どういうことですか?」



 先輩は、怒るのをやめて、呆れているようだった。半分笑っているように答えてくる。


「『徳』の貯蔵値がなくなって、マイナスになっちゃってるみたいだよ。これどうするのよ……」


「いやいや、何かの間違いじゃないですか。『徳』が無くなっちゃったら……」



「そう。『徳』が無くなったら、神界で食べるものは無くなるわ」


「そうですよね……。そんなマイナスになることなんて、今まで見たことないですし……」



「それ以外にも、ここで使える機能すべて、『徳』を使って実現させているんだよ。だから、こんなマイナスになる事態は異常なのよ!」


「つまり、徳が無いと、大ピンチですね……」



「当たり前でしょ! 諮問委員会にかけるまでも無いわよ! あなたは、今すぐ女神の称号を剥奪よ!!」


「え、なんで、そうなっちゃうんですか……?」



「女神である、あなたの『徳』を使うくらいじゃないと、回復できない数値よ! そうでもしないと、神界が正常に動かないのよ! 即刻、能力を剥奪して異世界送りよっ!」


「えええええーーーっ!」

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