ドジをやらかして神界を追放された女神、異世界で先生になってスローライフを始めます。

米太郎

第1話 女神のお仕事

「またやらかしたのっ!?」


「い、いや……。私は何も……?」



 部屋の中には、警報音が鳴り響いている。先輩が入ってくる時に開け放った扉の向こう、すなわち廊下からも警報音がなっているのが聞こえる。

 ゆっくりと赤いランプが点滅する部屋の中で、先輩が怖い顔を向けてくる。怒っていて赤くなっているのか、はたまた、ランプの色なのか……。



「転生者に与えることが可能な能力は、前世での『徳の高さ』までしか与えられるないって言ったよね?」


「……はい。それは何回も聞きました」



「そうだとしたら、なによ。そこのチート能力の彼は?」


「……え、えっと、誰のことですか? チート能力?」


 先輩が指差す方向には、私が今能力を与えていた魂がいる。部屋の中にうっすら浮かぶ炎のようなもの。それが転生者の魂。

 先輩の声に対して、魂はびっくりして震えているようだった。赤いランプに照らされながら、ふよふよと浮かんでいる。



「そこにいる彼に決まってるでしょ? まさか、あなた。自分が与えた能力の値を分かってないの? システムの使い方教えてあげたでしょ!?」


「……あ、はい」


 先輩は呆れながら、部屋の端にある大きなラックを指差した。身長よりも大きいような四角いラック。前面は金属の格子状になっており、扉のように開くようになっている。その扉を開けると、マシンが入っている。

 中にはマシンが何台も入っていて、そのうちの一つを引き出して、モニターを開いて私に見せる。

 明るいモニター画面には、なにやらいっぱい数値が入っている。



「これが、今あなたが与えた能力の値! 握力の値が10,000を超えてるのよ。これって、魔王でも握り潰せるくらいの力だからね?」


「えっ、あれ? 100くらいのはずですけども……?」



「握力100っていう能力を100個与えたら、そりゃあ追加した分だけ増えるわよ! 全部足し合わせてみてよ。そうしたら、握力10,000になるわよね? わかる?」


「……そ、そうですね。確かに、確かに。はは。それって、強すぎますね! なんですかそのチート能力?」


 先輩は顔を引きつらせながら、モニターを勢いよく畳んで、そのままの勢いでガタンと音をさせて引き出しをしめた。ラックのドアも勢いよく締めた。精密なマシンが入っているラックなのに……。



「あなた! いつまでも、新人気分でいられたら困るんだからね! チート能力ばかり与えていたらどうなるかわかっているの?」


「……は、はぁ」


 先輩は、部屋にいる魂に直接触れて、与えた能力値を吸い取っていった。それによって、力強く燃えていた魂は、弱々しい炎となっていった。

 そうすると、私のところへ戻ってきて、私が持っていたスイッチを押して魂を異世界へと転送させてしまった。



「あ……、まだ異世界転生の説明が出来ていなかったんですけど……」


「いいのいいの。魂、一人一人に説明したところで、誰も覚えていないんだから」


 魂を異世界へと送ったことで、警報が鳴りやんだ。赤いランプも消えて、薄暗い部屋へと戻った。静かになる部屋で、先輩は私に向かって怖い顔を向けてくる。


「今度からもっと気をつけなさいよ? 次やらかしたら、ただじゃすまないからねっ!」



 ――バタン。



 勢いよく部屋のドアが絞められた。


 私一人が残された部屋。

 警報といい、先輩の大きい声といい。

 大きな音をいっぱい耳に浴びたから、余韻が耳に残っている。



 ……うーん。なんだか難しいんだよなぁ。

 一回聞いたら覚えてるはずなんだけどなぁ。私も一応女神だし、そういうチート能力はついてるはずなんだけどな。



 ……まぁいいか、考えても仕方ない!



「次の方、どうぞー!」


 私が呼ぶと、次の魂が部屋に入ってくる仕組み。私がいる女神の間に通されてくる。

 今度も弱々しい炎。



「……あ、あれ?……俺は、どうしたんだ?」

「あなたは、死んでしまったのです」


 大体がこのやり取りから始まる。



「あなたは、前世で良い行いをしていたので、異世界へ転生する際に能力を与えます」

「……そうか、死んでしまったのか。」


「大丈夫ですよ。異世界も良いところです」


 炎はゆらゆらと、力なく揺れている。それを元気づけて生まれ変わらせるのも私たち女神の役割だからね。



「あなたの場合は、前世で良い行いをいっぱいしていたので、何の能力でも与えられますよ。例えば、魔法の能力とか身体的強化とか」



 炎は少し元気を取り戻したようだ。

 うんうん、よかった。


「ふふ、元気になれるように、いっぱい能力付けましょうか」


 炎に向かって手をかざして、一つ一つ能力を与えていく。

 システムのモニターなんて開かなくても、ここに早見表を用意しているからね。魔法の属性は大体同じ。必要な『徳』の値もあんまり使わなくて済むんだ。

 よし、後は、身体的能力も色々つけて……。



「よし、これで完璧ですね! 使える『徳』を使い切って、いっぱい能力を付けておきました! ではでは、良い異世界生活をー!」


 そうして、ボタンをぽちっと。

 魂は段々と薄れていき、異世界へと送られていった。



 ――ウゥーーー!


 ん……? エラー音?

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