おまけの第39話?



 国民へのお披露目が終わって次の披露の機会まで時間があったので、休憩室でレリアたちは休憩していた。


 花嫁衣裳を模した白いドレスを纏ったレリア。燕尾服を着ているセイ。緊張から解放されて安堵してた。



「それにしても……セイは、その……しないのだな」


 ふと、頬を赤らめながらレリアが会話の端を開いた。


「? 何のことだ」


 燕尾服のような堅苦しい服装は苦手なんだよな、などと思っていたセイは、レリアからの話し掛けに戸惑いを見せた。彼女が切り出してきた事柄のするとかしないとか、何を指しているのか解らないのだ。


「お披露目の最中に、私のお尻を触ったり、つねったりして刺激しながらも、平静を装ってにこやかに手を振ってみせるように命じたりとか……だ」


「……ん?」


 それってひょっとして、露出プレイの一種というべきなのだろうか。……いや、真面目な式典や披露の場において、そのようなことをしちゃうなんて、セイはまったく微塵も考えなかった。


 が、確かにエロ同人誌とかにおいて、ありうるシチュエーションなのだが、彼女の口から提示されるまで、まったく思いつかなかった。

 というか、半年振りにあって、即結婚ということで気持ちが昂ぶって余裕がなかったのだ。


 それに、まず周りが気付く。いくらバルコニーで下半身は隠れ気味かつ謁見の市井の民は下から見上げているとはいえ、不自然な腕の動きに察する者も出てくるに違いない。

 気付いても構わないと思っているならともかく、そんなシチュエーションで周りが気付かないとか、ファンタジーでしかない。

 ……そういえば自分、そのファンタジーな異世界にいるんだった、となるとやるしかない、とはならない。


「私が、その責めに耐えて平静を保っていると、だんだんと手つきが激しくなってきて、耐え切れるか、耐え切れないか、解らないような微妙な刺激を与え続けられて、身体が震えてくるくらいになるのだが、何とかそこは乗り切るとして……。そ、その後、きゅ……休憩室では、はげしく……その……はっ……私は……いや、違うんだセイ。そんなことを望んでいるんじゃないんだ。……そ、その英雄王様が、そのようなことを好んでされていたという……その記憶が……」


 ぶんぶんと手を振って自分の言ったことを否定するレリア。休憩室で激しくのくだりは今彼女が望んでいるとセイに受け取られかねないために否定したのだろうが……望んでいないのかとセイに問われたら目を逸らして察しろ、とか言われそうだ。


「……英雄王様も、なかなか意地悪というか相手の羞恥心を煽るのが好きだったようで……あんなにさわやかそうな笑顔で、天に昇っていったのにな」


 英雄王が好んでしていたと口にしたからには一度や二度ではないということだろう。


「あのさわやかな笑顔を浮かべて平然とした態度で、隣に座る王妃に悪戯を仕掛けて、他国の王とかの会談とかしてたのだろうか……」


 レリアの剣の技を増やしたり、剣捌きのレベルを引き上げたりで、英雄王の魂、記憶の引継ぎは非常に頼りになっている。だが、男女の営みの方にまで豊富な知識を彼女に与えるとは嬉しいような、初々しさがなくてちょっと悲しいような、複雑な気分にさせてくる。


 レリアもレリアで、彼の与えてくれる知識で興味が湧いたのだろう、色々試そうとしてたし……。確かに英雄王の知識は、男視点からのもので、実際にされた場合どうなってしまうのか、レリアは実際に体験してみないと解らないのだ。


「……その、してた……みたいだぞ。相手の王には結構ばれていたようだが……」


 顔を赤らめながらぽつぽつと英雄王の記憶を辿るレリア。真面目な会見の席でも、どうやらお盛んだったようである。


「あの英雄王っ……」


 天を仰ぐセイ。

 雲ひとつ青空のようなさわやかな笑顔を浮かべたザイード英雄王が、指だけぐにぐにと激しく動かしている姿が思い浮かぶ。

 しかも相手の王にばれてたとか、ほんと何やってんの、あの英雄王。


「……」


「……」


 レリアが何かを期待してこちらにちらちらと視線を送ってくる。何だかこの流れ、二人旅の時から繰り返していた気がする。


「レリア……言っておくぞ、しないからな」


「しないのか!」


 目を丸くして怒鳴るように声を上げるレリア。


「こ、こ……ここまで恥ずかしい告白をさせておいて……し、しないとか……」


「いや、自分から積極的に告白してきた気がするんだが」


「はっ……」


 ぴんとくるものが、レリアの中に湧き上がる。

 またとんでもないことを言い出すんじゃないだろうかという表情でセイが私を見ているが、そんなことはあるものか。何よりそんなとぼけた態度で誤魔化そうとしても、私は誤魔化されないぞと心の中で呟くレリア。


「すでに……い、妹サーラにさんざん辱めの悪戯をしていたのだな。どうりでお披露目の最中に、何やらごそごそと二人して怪しい動きをしていると思ったら……くっ、まったく気付けなかったとは」


「いや違うから……」


 立ち位置調整で少し動いていただけで、そんないかがわしい行為に耽るなんて考えもしなかった。

 何より、彼女に会うために、彼女と結ばれるために、懸命にルエル将軍に教えを乞い、ガルム古戦場への遠征を提案、計画、実行し成功させるのに手一杯だったのだ。

 妹姫サーラとの交流がないとは言わないが、身体を重ねるような関係では……まだない。


「違わないだろう!」


 レリアが声を荒げる。


「二人でいちゃついていたことはすでにルエルから報告を受けている。……将軍からは仲良くお茶をして歓談していただけとの事だったが、私は信じない。ここ半年、将軍にばれないように裏でこっそりと、あんなことやこんなことや……あまつさえ、そんなことまでしていたに違いない……」


 自分の発言に辛くなってきたのか、涙を滲ませるレリア。


「……まったく、困った陛下ですね。まだこれから予定があるというのに……」


 セイは休憩室のソファーに座ってめそめそと泣いているレリアの前に立った。そして彼女の顎に手を当てた。

 サプライズのためとはいえ、半年もほったらかしにしていたのだ。

 つまるところもっと自分に構って欲しい、いちゃつきたいということなのだろうとセイは考える。


「そんなことを言って誤魔化そうな……んんっ、はぁっ……んちゅっ……」


 レリアが抗議の声を上げるのを無視して唇を重ね、舌を彼女の中に挿し入れる。

 涙がこぼれている彼女の瞳が、驚きで大きく見開かられて、それからうっとりとした様子で細められて、最後に閉じられる。

 これを待っていたとばかりに、彼女の方からも腕をセイの首に回して長く長く唇を堪能する。積極的に彼女も舌を絡ませきて、より深くより激しく求めてきた。


「……ま、待つんだレリア……」


 そのまま勢いでなだれ込みたいところだが、まだこれから予定があるのだ。激しく乱れた状態で皆の前に出ていく訳にはいかない。

 ばれるかもしれないスリルを堪能するのもいいかもしれないとか、英雄王の薫陶を受けたレリアなら言ってしまいそうではあるが……。

 いや、アレの影響を薫陶というには色々危ないことが多いな……単純に影響でいいだろう。


「何だ、セイ……ここまできておあずけとか……」


「じゃなくて、これから予定あるんだから……解るだろう。それに……んっ……」


「んっ……セイ、そういうのはいいから……な?」


 舌をからめたキスで盛り上がってきたのか、レリアから迫ってくる。

 出来ることならセイだって彼女とそのままベッドになだれ込みたいところではあるのだが。


「あー、お姉様、ずるいですの! セイ様と口付けをまた交わして。次はサーラの番ですの」


 休憩で、お花摘みに出ていたレリアの妹姫、そしてセイのもう一人の嫁であるサーラが部屋に入ってきたのだ。彼女もまたレリアと同じような花嫁衣裳のような装いである。


「サーラの方こそ、ずるいではないか。私は半年、セイと離れ離れだったというのに、何度も将軍の屋敷で逢瀬を重ねていたと聞いているぞ。だから今度は私の番だ」


 レリアは姉という立場も、女王という立場も、投げ捨てたかのように、妹のように駄々をこねる。セイとしてはそんなに想われているのは悪い気分であるはずもなく、可愛らしいとも思うのだが……残念ながらこの後も予定が詰まっているのだ。


「でもでも、サーラだってセイ様のお嫁さんですからもっともっといちゃいちゃしたいですの。具体的にはチューとか一緒にお眠りするとか一杯一杯したいですの」


 だが、サーラも年下の妹姫として、駄々をこねることに限り負ける訳にはいかないとばかりに、アピールする。うん、可愛い、と素直に思うセイ。


「くっ……サーラにここまで言わせるとか……ほ、惚れた弱みとはいえ何という男なんだセイ。……はっ、もしやいずれ私たち二人を並べて……味比べとかするつもりだな」


「…………いや、しないけど」


「否定まで随分と時間を置いたようだが……考えていたのだな」


 レリアがその空白を咎めてくる。


「……はい」


 肯定をつつ、心の中で正座をするセイ。


「セイ様、わ、わたくしはその……レリア姉様と一緒に愛していただくのもやぶさかではございませんですの……」


 責められているセイを庇うつもりなのか、サーラが爆弾を放り込んでくる。何処までの行為なのかは彼女にしか解らないが、存外大人の知識もたっぷりなのかもしれない。


 恥ずかしそうに顔を赤らめて身体をもじもじさせながら提案をするサーラ。


「や、やはり、お前というやつは……だが……それもまた良いものだと英雄王様は……いや、まだ駄目だ」


 経験豊富な記憶にひっぱられて迂闊なことを口にするレリア。


 積極的なのは嬉しいけど、こうもっと初々しい反応も楽しみたいとか思ってしまうのは身勝手な心情であろうか……と思っているセイ。


 視線の先にはサーラが……そうだ、その分妹姫で……いやいや思考がおかしい方にひっぱられすぎている。

 英雄王さまの恩恵と呪いの強さに頭を抱えそうになるセイ。


「姉様はそうやってわたくしをすぐ子ども扱いされますの。まだ駄目ならいつになったらいいのですの? それは姉様の許可が必要なものですの? サーラが決められないものですの?」


「……それは」


 サーラは聞き分けのいい妹、と思っていたが、実はそうではなくて知らぬうちに彼女に無理を強いていたのかもしれない。

 そう思うとレリアが言葉に詰まる。


 ここであれこれ言ってもサーラには年上からの押し付けとしか思わないだろう。


「ほら、サーラ……おいで俺のお嫁さん」


 少しぴりっとした空気になったところで、セイが急にサーラを招く。


「? ……はい、セイ様」


 とことことセイの元へ向かうサーラ。

 可愛らしい彼女をセイは腰を落とし屈みながらぎゅっと抱き締めて、そして唇を重ねた。


「はふぅ……んんっ」


 セイからのキスにうっとりとした表情のサーラ。


「口を開けて……」


「セイ様? 何を、んぁっ……」


 唇を重ねるだけでなく、先程レリアにしたように、舌をサーラの可愛らしい口の中に挿し入れて、彼女の口腔を堪能し始めるセイ。

 そんなセイの行為に目を白黒させて驚くサーラ。


「……そういうところ……だぞ……本当に、何と言うか……はぁ……」


 驚きつつも、舌で口腔を乱されすっかり篭絡されてしまい、女の表情を見せる妹姫サーラ。本当にこの男が王配で良かったのか、とちょっと後悔するレリア。

 頭に手を当てて呆れていることを相手に示す。


「んっ……んっ……」


 されるばかりでなく、たどたどしいながらも舌を懸命に絡み返すサーラ。


「……はぁ……」


 舌を絡ませたキスに蕩けそうな表情を見せる。


「んっ……」


 セイがサーラを解放し唇を離す。唾液の橋が二人の間に掛かり切れ落ちた。

 唇を離した後も、感覚が残っているのか、舌をちろりと出して動かしてみせるサーラ。


「サーラ、焦って何もかも同じようにしなくてもいいんだよ。これから忙しくなるけど、なるべく時間を作って会いに行くから。……もちろんレリアにだって会いに行く。でもレリアはこれからすごく忙しくなるから……ね、ちょっとだけ先に譲ってあげてくれないか」


「……うう、こんな……大人のチューをしてしまって……我慢しろとか、セイ様は意地悪ですの。……でも、解りましたサーラ今日はもう我が儘いいませんの。ですから、次に会うときはもっともーっと、いっぱいいーっぱいしてくださいね」


「…………」


 レリアがジト目でセイを見ている。このたらしが、と視線だけで彼女が言いたいことが伝わってきた。

 それから彼女は盛大に溜息を付きながら、妹姫サーラと向かい合う。


「惚れた弱みとはいえ……サーラ、お前は、お前だけは、あの男に騙されないように注意するんだぞ」


「でも、姉様……姉様は?」


「姉様は残念ながらすっかり手遅れだ」


 サーラに笑顔でそう言い放つレリア。


「……」


 サーラは姉の発言に目を丸くする。


「……おい、レリア、手遅れってどういう……わぷっ」


「んはっ…………こういうことだ」


 レリアはセイを抱き寄せて、情熱的なキスを仕掛けてきた。

 セイの頭を後ろに反らされ、上からレリアの唇が迫り押し付けられる。

 腰を抱かれ背を反らせながらの口付けに気分はちょっとだけお姫様のようだった。


 王子様役のレリアがとても頼もしく男前に見えた。


「……しゅき……」


 思わず、思いもよらぬ言葉を口にするセイ。


「……うっほんっ、御三方そろそろ次の準備ですが、よろしいでしょうか」


 いちゃいちゃする甘い空気をものともしないでルエル将軍が咳払いをして割り込んでくる。

 どうやらご先祖に続いて、この甘ったるい遣り取りを見せ付けられることになるみたいである、お気の毒に。


「ルエル将軍……そうだな、そろそろ準備をしないと駄目か。……だそうだ、サーラ、セイ」


「はい、解りましたお姉様」


「……続きはまた後で、でいいなレリア」


「もちろんだ、しっかりと勤めを果たして……それから……たっぷり……その、な……」


 きりっとした先程の表情は何処へやら。微笑みつつも、想像に口元が緩みだらしない表情になるレリア。

 そんなレリアの様子に呆れながらも、待機していたメイドたちに合図を出すルエル。


「まったく……困ったものですな。ですが、こんな平和な遣り取りが王国の何処でも見られるようになると……良いのですが」


 まだまだ続くお披露目。目出度いながらも、王国の前途は多難だった。


「それでも、姫様たちと、我が息子ならきっと何とかしてみせるだろう」


 ルエルは化粧直しをしたり、乱れた身形を整えたりする三人を眩しそうに見つめる。ルエルの介入でようやく仕事が出来るようになったと、メイドたちが急ぎつつも慎重に、支度を手伝い始める。


「まだまだ、引退できそうもありませんな」


 誰ともなく呟くルエル将軍。

 身体の衰えも感じ始めてから随分経つというのに、まだまだ隠居はさせてもらえそうにない。


「王国に仕えて数十年、青かった髪もすっかり白くなってしまったというのに……。まだまだこの老体に出番があろうとは……まったくやっかいなことですな」


 この頼りない義理の息子には、まだまだ教えなければいけないことがたくさんある。今日のような調子では、後は彼らに任せてのんびり、とはいきそうにない。


「本当に……やっかいなことです、な」


 そういいながらも老将軍は、とっても穏やかな笑顔を浮かべていた。

 その笑顔に、レリアは信じられないものを見たという顔になる。


「レリア様、ぽかんと口を開けないでくださいませ。化粧が乱れてしまいます」


 そうメイドから注意されても、すぐに動かないくらいの衝撃だったようである。

 今日も王国は平和だった。



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