第27話



「調べる本命としてはやはり砦跡っぽい丘かな」


 草が生えている丘に二人は上がっていた。丘の形の整い方といい何かしらの人の手が入っていることは間違いないようだ。


 登る為の通路には石が詰めれられていて、スタンピードで荒れたところもあるようだが、草が少なかった。


「……ここは草が生えてはいるが、セイ」


「そうだな、あきらかにリビングメイルらしきものが警備しているみたいだな」


 砦は、思ったより元の雰囲気が残っていた。そして、あきらかに何者かが歩き、踏み固めているために周りに比べて、雑木や雑草の量が少ないと考えられた。石畳から生える雑草も少ない。


 それは同時にここに長時間留まることの危険を表しているともいえた。

 その何者かが友好的であるとは考えにくい。


「で、どうする……レリア。英雄王様の鎧か何かが残っているかもしれないが、あきらかにここは危険だと思うんだが……」


「……セイ、お前は英雄王の名前を知っているか?」


 レリアが不思議な表情でセイを見つめている。笑っているような呆れているような、それでいてそれが好ましいと思っているような何ともいえない表情。


「英雄王の名前?」


 レリアからの質問に、頭を捻る。急に聞かれるとなかなか出てこない。

 そもそも、何故彼女が訊ねてきたのかも解らない。


「そうだ」


彼女は真っ直ぐにセイを見ている。


「え……えーと、確か、ザイード・カルネージュだったっけ。……カルネージュどこかで最近聞いたような」


 セイの言葉にレリアが微笑む。


「そうだな、忘れっぽいようだから改めて名乗った方がいいかな、セイ」


「え?」


「この大深林に飛ばされた時に紹介しただろう。レリア・カルネージュ、私の名前だ」


「……あっ」


 大深林でレリアが自己紹介をしてくれたことをセイは思い出した。


 しかし、あの時はそれどころではなかったので、軽く流していたし、こんな辺境にまできて貴族の立場がどうこうとか煩わしいと思っていたので聞かなかったことにしたのだった。


「すまないな……だが、ということは……」


 レリアを指差すセイ。

 微笑みをより大きくにっこりと笑ってみせるレリア。


「一応、これでも次期女王候補だ」


「一応って……」


 まあ現状、この大深林から抜け出せないとどうしようもない。たとえ女王様の御威光があろうとも御身一つで家臣もおらずなにもない今の状態では、それを知ったところでどうにもならないことに変わりはない。そういった類の思いがこもっているのだろう、彼女のにっこり笑いが苦笑いに変わっていた。


「だからだと思うんだが……ここにもう少し留まらなければ……何かを探すべきだと思ってしまうんだ。それこそ、セイの言っていたように英雄王様の鎧とか剣とかだと思うのだが……」


「……なるほど、な」


 英雄王の遺品を持ち帰ることは正統性を示すのに便利な何かがあるのかもしれないが……それが必要ということは彼女には欠けているものがあるということなのだろうか。


「英雄王の剣か……それが必要なほど立場が危ういのか?」


「それはっ……そういう訳ではないが、私としても無念であった英雄王様の遺品を持ち帰りたいと思っている。今は大深林に飲まれてしまったここもかつては王国の領土、係争の地ではあったが……」


 危うい立場と言われてレリアが一瞬、動揺する。彼女にも色々思うところがあるのだろう。


「ここに慰霊碑を建てられるくらいまで何とかしたいと」


「そうだな……それが叶うと良いと思っている。が、今はそれどこではなくてな……」

レリアが踏み固められた地面を見回しながら歩き回る。


「それどころではないか……」


「あっ……すまない、今の話は内緒で頼む」


「……解った」


 セイはそんな彼女の背中を見ながら考える。


 それどころではない事態となると、お約束としては『魔王の復活』とかかな。魔王、魔物を従え、人間の国を脅かす存在。

 自分のような別の世界からのフォーリナーだって存在するんだ、不思議なことじゃない。


「そうか……」


 事情や立場はなんとなく理解したが、そうなると彼女を抱くとか息巻いてた辺りの扱いが非常に困るな、とセイは思う。彼女のことだからぐいぐいといったらいけそうな気がするとは彼女に失礼かもしれないが、その後どうするということになる。


 いや、その前に切り札として隠していた自分の正体に彼女はどう反応するかというのも気になる。


「どうした? また考え事か? お前の悪い癖だぞ」


 あちこち歩き回りながら、時に祈りを捧げるレリアがセイの様子に声を掛ける。


「あ、いや、すまない……」


「別にいいさ、お前のそんなところは解っている」


「……」


 セイはレリアの笑顔を見ながら、やっぱりいい女だと思いつつ、これ自分の切り札の話したら絶対に怒るな、とか考えていた。


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