第26話
金属鎧が徘徊していたであろう場所に二人は足を踏み入れた。
「……この場所は……」
草木に覆われた廃墟。
砦があったのか、近くには盛り上がった丘のような場所。
幾つもの錆びた鎧が転がっていた。その鎧の紋章を確認するレリア。
「この紋章は王国の旧紋章……つまりここは英雄王の最後の戦場……ガルム古戦場ということか」
「ガルム古戦場……」
ギルドに置いてあった地図を思い出すセイ。ディッテニィダンジョンから南にずっと行ったところの大深林地帯……隣国との国境辺りにかつて存在していたという街。
隣国との競り合いで戦場となり、大規模な衝突の末、突如出現した魔物たちの進撃に両軍が飲み込まれ全滅したと言われる。
かろうじて、魔物たちの進軍は食い止めることは出来たものの、押し戻すことは出来ずに大深林が広がることになった何十年も前の出来事。
その際に、前線に出ていた国王……英雄王と呼ばれた男を失い、以後王国は女王を戴くようになったという話である。
「……何もかも魔物の進軍……おそらくはスタンピード的なものに飲み込まれて何もかもが破壊されたと聞いたが……」
レリアが辺りを見回しながら呟く。
草木が生えているものの、街のあとはまだそこにあり、黒く焦げ半ば崩れた石壁とかもあちこちに存在している。
保護魔法が掛かっているのか、錆びつつも朽ち果ててない鎧があちこちに転がっている。
王国の立て直しの為に調査隊を派遣することも叶わず、放置されたかつての戦場。
「勇敢に戦ったものたちの墓標としては……寂しいな、仕方がなかったとはいえ」
「そうだな……」
レリアに同意するセイ。
調査隊も入ってこないような場所ゆえに仕方ないが、慰霊碑の一つでもあればと思わなくもない。こちらの世界にそういうものがあるかは判らないが……。
「鎧の魔物が出現するのも納得だ。戦士たちは勇敢に戦ったとはいえ無念な者も多かっただろう」
辺りを見回すが、今のところ夜に音だけ聞いた鎧の魔物の気配はなさそうだが、いかにも動き出しそうな鎧は幾つも転がっている。
保護魔法が掛かっていることを考えると結構な身分の者が多く居たのかもしれない。その筆頭が英雄王であるのだが……。
「……英雄王の墓標、セイ……すまないがここを調べてもいいか?」
「危険だぞ。鎧の魔物もおそらく遭遇すると思うが……」
「それでも調べたいのだ。駄目だというなら私を置いて先に行ってくれても構わない。遺髪を届けてくれるだけでいい」
「……レリア、何でそうお前は……」
はあっと溜息を吐くセイ。
さっき付き合うといったばかりなのに、すぐこれだ。報酬の為に付き合ってもらうぞ、くらい言えばいいのにとセイは思う。
「付き合うよ。報酬をきっちりと頂くためにも、な。だが、あまり時間を掛けたくはない。夜になると一斉に鎧たちが動き出すとかありそうだしな」
「ありがとう、セイ」
微笑むレリア。素直に礼を言う女騎士にぐっとくる気持ち。
どこまでも真っ直ぐで可愛らしい。セイも腹を括って彼女とともに帰還することを望んでいた。
「報酬のためだ。しっかりと綺麗な身体を隅々までじっくりと堪能してやるからな」
そんなまぶしい彼女にセイは照れ隠しなのかこういう言葉を掛けるしか出来ない。
「ふふっ、じっくりと見られるのは照れるが……セイなら構わないぞ、たぶん」
セイの照れ隠しを解っているのか、レリアは軽口をかえして調査を開始した。
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