第18話
食糧事情を考えるとすぐにでも出発すべきだったが、検証による疲弊の回復のために遺跡の安全な場所でもう一晩休むことにした。
今はレリアが火の番をしている。
すやすやと安心した顔で寝ているセイを横目に見ながら物思いに耽っていた。
「……格好良くいったものの……まったく、酷い男だ」
お前は自分のために尽くして野垂れ死んでくれと言った相手を前にこんなにも無防備で眠るとは。
よくも暢気に寝られたものだと感心する。
そんなことを言われたら、私がセイを殺してでも食料や水を奪って脱出するという選択をしないとか思わないのだろうか。
たとえ、生き延びることが出来なかったとしても、目の前の男の為に死ぬより、自分で自分の為に生きて大深林で野垂れ死んだほうがましだと思うものだって居るだろうに。
レリアはそう考えながらも自分がそういう選択をしたくないと思っている。騎士として誰かを護りたいということなのか。
次期女王候補としてなんとしても生き延びなければならない、と思うなら彼を犠牲にしてでも進むべきなのに。
レリアはセイの寝顔を複雑な表情で見つめる。
こいつの無防備さはなんなのだ? 私がよからぬことを企まないと思っているのか。
死ねと言った相手に何なのだ、本当に。確かに共に行こうと私も言いはしたもののどうしてもわだかまりが残る、と思うのだが、この寝顔を見ていると何事もなかったかのように考えているのではないだろうか。
「最低だな……本当に」
あきれ果てた言葉を口にして、レリアは視線を焚き火に戻す。
「とはいえ、旅をするなら……一緒か」
危険な大深林で野営するなら結局は相手に任せて眠ることになるのだ。
今を誤魔化したところですぐに突きつけられる問題だ。
それを考えると駄目なら駄目で仕方ないというセイの姿勢がいいのかもしれない。
「……」
彼の寝顔を見ながら、レリアはこれからのことを考える。
夜は静かに更けていった。
***
魔物の潜んだ沼地などあきらかに駄目な方向を除外して二人は昇った太陽で方角を確認しながら大深林を抜けるべく移動を開始した。
木々が密集して、所々でしか空を仰ぐことが出来ない中、方角を定めてなるべく同じになるように歩む。
陽の光は光線のように所々にしか差さずに薄暗い森。苔の生えた石が転がり足場は決していいとは言えない中二人は協力して進む。
慎重に、けれど大胆に、振り返らずに二人はひたすら進む。
レリアが先行してずんずんと歩いていくのは、セーフエリアだった遺跡には戻らないという決意の表れなのか。
「レリア、速すぎじゃないか?」
「……そうだな、少し気を逸りすぎたかもしれない」
レリアがセイの言葉にペースを落とす。今朝確認した食料と水の残りの量に自然と焦ってしまっていたようだ。
現地調達しようにも、この辺りの魔物で食べられそうなものを倒せるかどうか解らないし水も湿気はあるので掘ればある程度は確保できそうだが、ちゃんと飲めるかというと疑わしい。
魔素の影響が強く出るかもしれないということを考えると手持ちの水で凌ぐことを考えるほうが良さそうだと判断したのだが、それが焦りの元になってしまっていた。
「しかし、あまりのんびりもしてられないだろう。この辺りだと身体を休めれそうな場所はなさそうだ」
「……疲労はとれないかもしれないが、いざとなれば何処でも休むしかない。無論、安全なほうが良いに決まっているが……」
セイはレリアの疲労を気にしているようだった。彼は魔素の恩恵もあってかそれほど疲労していないようだ。
「解っている」
レリアは答えながらも、どんどんと先に進んでいく。セイはそんなレリアに付いて行く。
行けるうちになるべく移動しておくというのは賛成だったが、少々心配になる。
疲労軽減の効果が付いている装備とはいえ、ここ数日一緒に居て考えられるペースよりも早い。
レリアの気持ちを大事にしたいが、これは休憩を早めに取る必要があるかもしれないな、とセイは考えながらレリアと共に突き進んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます