第7話 ある家に伝わる話
僕の友人D君が子どものころ、彼のお爺さんから聞かされた話ということです。僕はD君の話を聞きながら、恐ろしさを感じ、好奇心を刺激されました。ここに彼のお爺さん……そして彼から伝わった昔話を記します。
僕やD君が住む八尺市には昔から、とある儀式が伝わっていたそうです。それは異世界に存在する者を呼び出すための儀式で、最近僕が調べていた儀式との類似性を感じます。その話を聞いた時、点と点が線でつながったような感覚に興奮しました。
昔、この地のとある武家に男の子が産まれました。時代は安土桃山の頃とのこと。はるか昔のできごとに思いを巡らせると気が遠くなりそうでした。
男の子はすくすくと育ち、そのまま大人へと成長していくかと思われました。ですが、事故により亡くなったそうです。事故があってから武家の棟梁はおかしくなってしまったのです。彼は男の子を甦らせようと考えました。様々な文献を読みあさり、様々な人間を屋敷に呼び、そうして長い時をかけて儀式を完成させたそうです。恐ろしい執念があったのではないかと想像します。想像力を働かせて棟梁の心情を思うと、恐ろしくもなりました。
棟梁が完成させたその儀式が今、八尺市に伝わる儀式なのです。異世界の者を呼び出す儀式は本物です。ただ、棟梁があの世だと考えていた異界には、死者など存在しない。そこは死者の国ではないのです。ただの不気味な異界なのです。
棟梁が儀式によって何を呼び出したのかは伝わっていません。けれど、それはきっと彼が望んだ我が子ではなかったのでしょう。恐ろしい執念の果てに望むものを手に入れることができなかった彼は哀れでもあります。
時が経ち、江戸時代になると、この土地で奇怪な生き物が発見されました。D君の家にはその文献が残っています。その生き物は棒状の体に板のような羽を持っていて、その亡骸は一日かけて解けるように消えてしまったといいます。その話を聞いて僕は八尺市に現れたUMAを思い出しました。
そう、スカイフィッシュです。あのスカイフィッシュは江戸時代に存在したのです。そして江戸時代に現れた奇怪な生き物たちはD君のご先祖様が呼び出したものだと伝わっています。なぜ、彼のご先祖様が儀式をおこなったのかは分かりません。それも知ることができれば良かったのですが、残念です。
かつて、この土地に儀式が生まれ、現在の八尺市まで、度々異世界のものを呼び出す儀式がおこなわれてきた。それが八尺市に起こる怪異の事実のようです。これまで見えていなかった暗闇に光が当たったようで、もやもやとした気持ちが少し、すっきりしました。
まだ、もやもやとした気持ちは残っています。僕はもう少しだけ、この八尺市について調べたい。調べたいですけど、暗闇に光を当てるほど僕は、もうやめた方が良いんじゃないかと思ってしまう。
怖いというより不安なのだと思います。
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