第5話 インターホン

 昔、友人のCから聞いた話です。


 Cはその時、大学生で夏休みを実家にこもって過ごしていました。中古のゲームを大量に買って、夏の間中遊ぶつもりだったそうです。


 その日、Cはクーラーのよくきいた部屋でゲームをしていました。彼が言うには昼過ぎのことだったそうです。家のインターホンが鳴りました。


 インターホンは続けざまに何度も鳴らされました。Cは面倒に思いながらも玄関へ向かいました。


 彼の家は玄関の扉にすりガラスが張られていて、扉の外に人が居れば、その姿が映るようになっています。しかし、その日は奇妙でした。


 すりガラスの向こうに誰も居ないのです。誰も居ないのに、誰かがインターホンを鳴らし続けている。その矛盾する状況が恐ろしく、Cは両親が帰ってくるまで家に籠り続けていたそうです。


 両親が帰ってきてCは安堵しました。ただ、その日から両親は人が変わったようになってしまったそうです。時々、親同士で、奇妙な言葉で会話しているのを見たこともあるといいます。


 Cは夏休みの終わる頃に実家を出て、それからずっと実家には戻っていないそうです。あの家に居るのはもうCの両親ではない。だから帰りたくないそうです。


 彼の両親はどうしてしまったのでしょうか?


 2012年。


 八尺市のとある住宅地でピンポンダッシュが横行する。その地区には小学校があり、近所の小学生の間でピンポンダッシュが流行っているのではないかと、地域では話されていたそうだ。


 実際、ピンポンダッシュはその地区で結構な問題になっていたらしい。中には、ずっとインターホンを鳴らし続けられた、という報告もある。


 結局、この問題の犯人が捕まることはなく、翌年頃には、この地区でのピンポンダッシュの被害はなくなった。


 2013年。


 八尺市のとある地区の住民が皆おかしくなってしまったと噂が広まる。その地区に新興宗教の本拠地が生まれ、地区の住民全てが、その宗教の信者になってしまったという。


 地区の住民全てが新興宗教の信者になる。そんなことが、ありえるだろうか?


 僕は疑問に思いつつ、その地区へ足を運んでみた。そこにはかつて友人が住んでいた家もあり、小さな頃に行ったこともある。僕の家からそう遠い場所でもない。行かない理由はなかった。


 そして、僕はその地区へ行ったことを後悔した。


 そこは見た目には、何処にでもありそうな住宅地だった。ただ、雰囲気は奇妙だった。


 奇妙、と感じたのは、その地区の住民が何か奇妙なのだ。まるで何かが人の皮を被っているかのようなぎこちなさがあり、そして臭かった。実際にひどい臭いがしたのだ。


 僕は、そこに長居するべきでないと、すぐに判断した。


 その地区を立ち去り、以後、僕はそこへ足を運んではいない。

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