第4話 バケツのミイラ
1961年。
八尺市の飲食店で奇妙な事件が起きた。店の大きなバケツの中に成人男性の死体が入っていたのだ。
そのバケツは死体が発見される一日前まで空だったはずで、一晩のうちに急に死体が入っていたという。
死体の身元は分からず、ミイラのような状態になっていた。誰かがバケツに入ってから死体になったとは思えず、誰かがこのミイラを運んできたと考えられる。しかし、何のために?
わざわざミイラを飲食店のバケツに入れる理由とは何であろうか。事件のことがあって当時は大きな騒ぎになり、店はしばらく営業が止まっていたらしいが、店への嫌がらせのためにミイラを運んできたとでも、いうのだろうか?
この店、永久軒は七十年代の初めのころに閉店したらしい。なんでも、死体が出現した後も奇妙なものが、たびたび店に出現していたらしい。
それは奇妙な形をした花だったり、奇妙な匂いのする菓子らしきものや、正体不明の液体が入った瓶だったりしたらしい。店主が亡くなってすぐに家族は店を引き払ったそうだ。
死体や花や菓子や瓶を店に置いていたのは誰の仕業だったのか。それは分かっていない。
瓶の中身がなんらかの飲み物だったと考えると、あるイメージが頭の中に結び付く。思うに、死体のあとに置かれていた花や菓子や瓶は供え物だったのではないだろうか。事故現場に供えるように、それらの物は置かれていたのだろう。
誰が、何のために、という疑問は残る。あきらかに、いたずらの域を越えた犯罪だし、何か得るものがあるとも思えない。
1973年。
もうひとつ奇妙な事件を紹介する。
八尺市の山中でバケツに入った死体が発見された。死体はミイラのような状態になっていて、周囲には多くの物が、供え物のように置かれていた。
発見者は山へキャンプに来ていたようだが、偶然に死体が入ったバケツを発見したらしい。当時は大きな騒ぎとなり、キャンプ場もしばらく閉鎖されたそうだ。
これらの事件は店やキャンプ場に対する嫌がらせのために行われたのだろうか。僕にはそう思えない。おそらく、これらの事件はなんらかの儀式だったのだ。なんのための儀式かは分からないが。
儀式にはミイラと供え物、そしてバケツを供える。ただ、バケツに関しては何かの代用ではないかと考えられる。例えば、死体を埋葬するための棺、それをバケツで代用しているのではないだろうか。ミイラが用意できるなら棺も用意できるようには思えるが。
誰が、なんのためにこんなことをしていたのか、それは分からない。
ただ、五十年以上前の八尺市では不気味な儀式が存在したようだ。
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