第2話 夢の女
1989年。
八尺市である噂が広まる。夢の中で長身の女が現れたというのだ。
女は決まって白いワンピースに麦わら帽子を被っていたと、夢で彼女を見た人たちは語る。彼女は夢の女と呼ばれ、八尺市中の少年たちが夢に見たと言う。
夢の女はこちらを見ていたと、少年たちは語る。彼女が夢に現れるのは、決まって十代の少年の前であり、異性や別の年代の人間の前には現れない。
その存在はあくまで噂に過ぎないのだが、一時期の八尺市では、多くの目撃情報があり、それは雑誌やラジオへの投稿という形で知ることができる。
また、当時ローカルのテレビ番組で芸人が依頼人からのお悩みを解決するという番組があった。その番組内で夢の女について調べる回がある。
依頼人は十二歳の少年。高山典明くんと言い、夢の女が眠る度に現れて気になるのだと言う。怖いとか、不安だとかではなく、気になるんだそうだ。彼はなんとなくだけど、その女性を前から知っている気がすると語っていた。
番組内で依頼人は夢の女の絵を描くのだが、その特徴は僕が先にあげたものと一致する。麦わら帽子を被り白いワンピースを着ているのだ。が、その顔は何も描かれていない。
依頼人が言うには、夢の中でのことは目が覚めるとすぐに、あやふやになってしまうらしい。目が覚めた瞬間には、夢の内容がはっきりしない。ただ、彼女がこちらを見ていたことと、その姿はおぼろげに覚えているのだと。
番組では典明くんが描いた絵を頼りに調査がされ、何人か夢の女を見たという人物も出てきた。彼らは皆十代の少年で、同じような夢を見ていた。同じような夢を見ていた彼らの主張について気になることがある。
テレビに出てきた典明くん以外の少年たちは皆、夢の中の女を怖い存在として語っていた。彼女に見られていると怖くてたまらないのだと言う。
典明くんだけが、夢の女を怖がっていなかった。これはいったい、どういうことだろうか。
結局、番組内で夢の女が見つかることはなかった。が、ひとつ有力な説が出た。
番組内に登場した有識者が語るには、テレビで放送されるコマーシャルの中に出てくる女優の姿が頭に刷り込まれているために、このような夢を見たのだろうと、もっともらしいことを言っていた。
当時のコマーシャルには麦わら帽子を被り、白いワンピースを着た女優が出演するものが確かに存在した。番組では、一応の結論が出ていたが、どうも典明くんは納得していない様子だった。
そして翌年。典明くんは行方不明になっている。
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