八尺市怪奇譚
あげあげぱん
第1話 長身の女
現在、八尺市の大学に通う僕は趣味で怖い話を集めている。そんな話をまとめていく。
1991年。
八尺市の都市部から車で一時間ほどの場所に小さな村でのことだ。その村はほとんど市の外というか、隣の市との境の辺りで事件は起きた。
当時十歳の坂本了くんが行方不明になった。
行方不明になった坂本くんは現在も見つかっていない。
坂本くんの行方が分からなくなる前、彼は背の高い女の人がこっちを見ていると、よく周辺の人々に言っていた。彼を見る女の背丈は非常に高く、ゆうに二メートルを越えていたそうだ。
だが、坂本くんの言う長身の女を周囲の人々には確認ができなかった。だから、坂本くんが嘘をついているのだと思っていたという。
長身の女を見たと言うのが嘘だったとして、なぜそのような嘘をつかないといけなかったのだろう。彼は周囲の気を引こうとすることが多かったらしいが、それにしたって、もっと違うことを言うのではないだろうか。
思うに坂本くんは嘘なんかついていなかったのだ。僕はそう思う。
坂本くんの言葉を肯定するように八十年代の終わりごろから九十年代の中ごろまで八尺市で長身の女の目撃情報はちらほらと存在する。長身、というのが二メートルを越えるほどの高さで、それでいて見えているのは本人だけ。という特徴も繋がる。
さらに、長身の女を目撃したというのは十代の少年たちであることも重なる。彼らは坂本くんのようにさらわれることはなかったが、一ヶ月ほどの間、長身の女がこちらを見てきていて不気味だったと語る。
最近、長身の女を目撃したことがあると語る男性と話をする機会があった。十代の頃に女を見た彼は、現在では四十代の素敵なおじさんだった。
彼、仮にAさんとする。Aさんが語るには女は黒いスーツを着ていたという。髪が長いから女だと思ったが、もしかすると男だったのかもしれない。あるいは人間ですらなかったのかもしれないと。
その不気味な存在はただ、遠巻きにこちらを見ていた。動くことはなく、はっきりと見えるのに、他の誰に聞いてもそんな者はいないと言う。あの時はとても恐ろしかったとAさんは語った。
長身で黒いスーツ。これは海外で語られる都市伝説的存在スレンダーマンではないだろうか。
日本の八尺市に出現したスレンダーマンが坂本了くんを拐ったとは考えられないだろうか。
どうして目撃者のうち坂本くんだけが拐われたのか、それは僕にも分からない。ただ。
現代の誰かがその存在を見てしまうことがないように祈っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます