第4話 ちゃんと見て



恋愛ドラマとか、少女漫画みたいに上手くいくわけない。

そもそも智紀を避けてるのは自分。

自分のせいで関係が拗れたのに、智紀は私と話したいって言う。

・・・だから余計に期待する。

期待とは裏腹に「なんだその態度は」って怒られるかもしれないけど。



「あらー、河上君久しぶりじゃない?お母さん元気にしてる?」


「お久しぶりです。おかげさまで元気です。」


玄関を開けたのは母だった。

最悪、着いたら連絡してって言ったのにばっちりインターホン押された。

幼稚園からずっと知ってるので、母もカメラからみた智紀を見てすぐに開けたらしい。

何親しげに話してるんだうちの親。

私が階段を駆け下りて言った。


「上がって。部屋変わってないから。右側の部屋。」


不機嫌で可愛くない言い方をしたのに、「わかった。」とさわやかに返事をした。


「うわ、なんか懐かしい匂い。でも理菜って感じ。」


私が飲み物を持って部屋に行くと、智紀が言った。

ローテーブルを囲んで腰をかけた。


「あのさあ、もう理菜って軽々しく呼ぶのやめてよ。」


「ええ?じゃあ理菜さん?」


「そうじゃなくて、高見とか高見さんって呼んでよ。みんなが勘違いするでしょ?」


私は不思議と話ができていた。

あんなに話すことを躊躇していたのに。


「俺にとって理菜は理菜なの。てかさ、なんで俺のこと避けるわけ?俺なんかした?」


ですよね。そうですよね。

中2のあの日からまともな会話を避けていたのだから。


「別に・・・」


「別にってなにそれ。俺はずっと気にしてるのに?

3年の時もクラス一緒だったけど全然話せないしさ、俺、卒業式の後の花道でも理菜のこと探してたのに帰っちゃうし。」


しゅん、とした表情で私をチラッと見ている。

悲しそうな顔で私を見ないで欲しい。


私が悪いのはわかっている。

私が勝手に智紀が好きになって、妬いて、自分の都合で苦しいから避けてきた。


「理菜」


「な、なによ」


テーブルを隔てて座っていたはずなのに、いつの間にか智紀が近づいている。


「理菜、ちゃんと俺見て話して」


「だから、なんで・・・私は話すことないって」


「俺はあるよ。だって理菜変じゃん。急に明らかに避けてさ。友達にそんな避けられ方されたら意味わかんないじゃん」


「だって・・・」


「だってなんだよ。理由があるなら俺の顔ちゃんと見て話して。」


なんでこの人はこうやって真っ直ぐ私を見れるんだろう。

私に言葉をかけれるんだろう。


「だって・・・・」


私は声を出そうとした。

でも、声が震える。

話さなくちゃいけない。もう逃げられない。

これだけ詰められたら、もう私の思いは隠せない。

目頭が熱くなる。


俯いた私の手を智紀が触れた。


「あのさ、避けられてたの怒ってるわけじゃなくてさ、俺は理菜の話聞きたいんだ。

理菜は忘れてるかもしれないけど、小さい頃から理菜は俺の話はよく聞いてくれるけど理菜は俺に話してくれないでしょ?

・・・・だからさ、理菜のこと聞きたい。

納得したらすぐ帰るから。」


智紀の優しい声色が、私のずっと好きだった気持ちを思い出させる。


変わらない、優しい声。

私は触れた手の温もりを感じながらぽつりぽつりと言葉を紡いだ。




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