第25話「季節は次々死んでいく」

 2021年4月23日 午後5時02分。

 千葉・浦安 フューチャー・スタジオ・ランド株式会社 3階・特別応接室。


 西陽が差し込む部屋で鷲山・エドゥアルト・源一郎はソファの隣に立ち、眼下に広がるテーマパークを眺めていた。人がまばらな園内には、時おりカチューシャを身につけたスーツ姿の若者が通り過ぎる。


 扉をノックする音がする。


「どうぞ」と言うと、一人の女性が部屋に入ってきた。白い髪を後ろで結び、クリーム色のスーツを身につけている。


 フューチャー・スタジオ・ランド株式会社代表取締役兼フューカインド執行役員

 北堂ベル


「お時間をいただき、ありがとうございます」

「とんでもない。して、要件とは……」


 源一郎が振り向くと、北堂は白い封筒を差し出した。

 封筒の表には毛筆で「辞職願」と書かれている。


「止めても、無駄なようだな」

「はい。若い者に二度も負けてしまっては、執行役員という肩書きにも泥を塗ってしまいます」

「二人とも、ただの〝若い者〟ではないのだが……」


。他の社員への示しにはなりません」

「そうか……」


 源一郎は眉を顰め、差し出された辞職願を受け取った。

 30年の重荷を手放した北堂は、鳥が羽ばたくように両手を腰元で重ね、

 そして深々と頭を下げた。




「お力になれず、誠に申し訳ございませんでした」




 彼女の謝罪を源一郎は正面から受け止めた。

 肯定もせず、否定もせず、叱責も罵倒もせず。ただ彼女の謝罪を受け止めた。


「そうか……」


 源一郎は踵を返した。西陽が差し込む窓からはテーマパークを眺めることができる。


 ふと、中央の噴水で写真を撮る男女四人組が目に入った。そのうち一人の女性に焦点を当てる。彼女はオリジナルキャラクターの耳の形をしたカチューシャを身につけ、隣を歩く女性と談笑していた。


 そんな彼女を見て源一郎は言う。


「あれが……〝羽坂友菜〟か……」


 その言葉に秘められた意味を類推する者は、誰もいなかった。




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   第一部・完






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引き続き、拙作をよろしくお願いいたします。

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