第6話「EM07_B16_Edit#070705ってなんだこのタイトル!?」
2021年4月9日 午後1時00分。
長野県尾長岳 登山口 標高1550m。
空は澄み渡るほどの快晴だった。標高が高い分、天は蒼となり、雲は手を伸ばせば届いてしまいそうなほど近かった。
朝九時に東京・三田にある本社を出発し、首都高から中央自動車道を進むこと五時間半。友菜たちはフューカインドが所有する尾長岳の登山口に来ていた。
〈三次研修〉は、体力試験。
整列した新入社員の前で人事部の担当者がメガホンを手に話した。
「皆さんには四人一組のグループに分かれてもらい、目的地に向かってもらいます。
支給するのはこの山の地図とトランシーバー、非常食などが入った緊急キットです。遭難したなど万が一の時には、このトランシーバーを通じて救助隊を呼ぶことができますが、その時点でそのグループは失格となります。午後五時までに目的地に着けなかったグループも同様です。
尾長岳には複数の隠しカメラに加え、ドローンも展開していますので皆さんを見失うことはありません。ご安心ください。ただし……」
担当者は一拍置いてから言った。
「見失わない、ということは皆さんを常に監視している、という意味ですので」
冷たい声音に新入社員は息を呑む。
この試験は体力試験と名目されているが、裏の顔はグループワーク試験。メンバーとのコミュニケーションも重要な審査基準となる。
説明が終わるとグループ分けが行われた。
(えっと、私のチームは……)
グループ分けの用紙を見ていると、見知った名前が目に入った。彼女は……。
「ゆなっち、ゆなっち!」
後ろから
振り返ると、友菜より小柄な女の子が立っていた。
彼女を、友菜は知っていた。
「茉莉乃……」
渡邉茉莉乃。
転生する前、友菜と同期だった彼女は一緒に遊びにいくほど
(そっか。パラレルワールドだから、同じ人がいるかもしれないんだよね)
「私たち同じチームでしょ。良かったぁ。知らない人とだったらどうなるかと思ったよ〜」
どうやら、この世界の友菜も茉莉乃と友達のようだ。
「そうだね。それで、あとの二人は……」
再びグループ分けの用紙に目を落とすと、
「あっもしかして、羽坂さんと渡邉さん?」
と二人の男性が近づいてきた。
一人は赤のフリースと黒のロングパンツを身につけている一方で、髪をワックスで七三に分けており、登山しに来たのか商談をしに来たのか分からない格好をしていた。もう一人はメガネをかけた坊主頭で、ショートパンツとタイツを合わせて履き、紺色のジャケットを羽織っている。
「えっと、川手さんと
「はい。私が
彼が自己紹介した瞬間、友菜と茉莉乃は目を細めた。
(くっ、眩しい……)
一流大学一流学部卒。加えて性格も爽やかで容姿も美麗ときた(髪型はおかしいが、顔はイケメンだ!)。ここまでパーフェクトな人間なら、後光が差すのも不思議ではない。無心論者でさえ手を合わせて拝むレベルだろう。
現に友菜と茉莉乃は将史に手を合わせていた。
(ここで徳を積んどかないとね、ゆなっち)
(そうだよ、茉莉乃。あたしらは弱小大卒なんだから)
そんな二人の反応を気にする素振りもなく、将史は
「それで、こちらが
と、もう一人のメンバーを紹介した。
だが、この鼎富三郎という男に二人の女子は度肝を抜かれることになる。
鼎は「ふむ」とメガネをクイッとさせると表情を変えずにこう言った。
「拙僧の名は鼎富三郎で
好きな女性のタイプは清純派むっつり系!
身長160cm、体重48kg、
スリーサイズは87、58、85、
な・り!」
二人の女子が固まったのは言うまでもない。
そしてこう思ったことも言わずもがな、だ。
((ちょっと待てぇい!))
なんだコイツ!?
清らかな心持ってそうな頭光らせておいて、中身はただの変態じゃねぇか!!
しかもなんで身長体重、果てはスリーサイズまで指定してきてんだ。キモッ!
そこまで間髪入れずに思ったところで友菜はある恐ろしい考えに思い至る。
(えっ、ちょっと待って……。
あたし達とこの変態坊主、同じチーム!?)
心なしか、富三郎のメガネと頭がキラーンと光った気がした。ただ光が反射しただけなのに気持ち悪い。
「あの、川手くん。この人は……」
友菜は助けを求めるように優等生を見た。しかし彼は
「さあ、準備ができたら出発しよう」
と表情ひとつ変えずに装備の支給場所へ向かってしまった。
(一体どうなるんだ、……この試験)
晴天の尾長岳山麓。友菜は一抹の不安を胸に抱えた。
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