とある調査員の手記
7月22日。
時刻は午後八時ごろ。
S市内で起きた火災事故のテレビ中継(Sテレ)にて、調査対象と思われる人物を発見。
本部に確認したところ、都内では中継されていないという事だったため、録画したデータを後ほど送ることとする。
調査対象は、出火したマンションに取り残された子供を救出。両親は外出中とのことであったが、子供または一家の関係者であるかは調査を要する。
調査対象の状態について。
見たところ身体は甲殻類のようで、頭部が蟹の甲羅のようになっていて、腕は鋏状であった。
身に着けていた服装(フード付きの黒いジャージ)からして、20代~30代の男性と思われる。
調査対象は素手で、しかも手が鋏になっているにもかかわらず、外壁の排水管(塩化ビニル?)をよじ登って4階まで移動。着ていたジャージが焼け焦げて欠損するほどの炎にもかかわらず、本人自身にダメージを負った形跡はなし。
常人とは一線を画す身体能力を保有していることは間違いなさそうである。
なお、子供の救出後、調査対象は自らテレビ局のカメラの前に姿を見せた。記者から質問には答えず、鋏を頭上で叩くような仕草を取っていたが、これにどのような意味があるのかはわからない。
もし、誰かに向けた何らかの合図だったとするなら、すでに調査対象の状況は外部に漏れているということになる。
だとすれば由々しき事態である。
素性、罹患の経緯、行動目的において全てが不明であるが、なんにせよ肉体変化の程度から見てすでに手遅れである可能性が高い。
引き続きS市内に滞在し調査を継続すると同時に、今回発見した調査対象への接触を試みる。
なお、S市内において、調査対象は『カニマン』と呼称されているらしい。
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