05 なんだこれ?

その日もまた森に向かった。


正直昨日のことがあるので怖い。

だがそれでも何か依頼をこなさないと生活ができない。


ローラさんから、今はイヌマキが買取が5割増しだと言う。イヌマキは500gで銀貨4枚なので暫くは銀貨6枚。500g集めるだけで宿代が2日分になる。

今まではニックさんが頻繁に集めていたようで、そのせいか高騰しているらしい。


もちろんトクサより集めづらいし何より木に登らなくてはならない。だが僕にはこれがある!

そう思って取り出したのは銅貨1枚で購入した荒縄だ。


それを手に、昨日見つけていたイヌマキの木の前に立つ。

縄を木と僕自身を囲むようにしてしっかりと縛った。


これで木登りがやりやすくなる…はず。

自信は無いが、実家の本で見た知識を試してみる。


「よっ!ほっ!」

以外と登りやすいが、手の平が痛い…


これは…きついかも…

2mと少しの高さまで登ると、非力な僕の腕がぷるぷると震えだした。


「だめ…だー!」

僕は木の幹から手が離れ、腰から地面にたたきつけられた。


「うげっ」

地面に激突して無様な声を漏らす僕。


でも地面にしては柔らかかったような…腰を摩りながら立ち上がり、落ちた地面を確認すると、そこには角兎が横になっていた。


これは…死んでる?

何かを感じ咄嗟に能力板スキルボードを出すと、めでたくレベルが11に成っているのが確認できた。予想通りにオール2に、体力と魔力は20になっていた。外殻も10になっている。


スキルは覚えていないが初の能力値アップに嬉しくてガッツポーズ。


「やった!遂に能力値が増えた!」

そんな僕は、死んでいるであろう角兎の上にフワフワ浮かぶシャボン玉のようなものが目に入った。


「なんだこれ?」


その見たことのない何かを、恐る恐る指でちょんとして…


―――スキル[突く]を覚えました。


そんな声が脳に響く。

目の前に出したままの能力板スキルボードを確認すると、スキル[突く/Lv1/強烈な一撃]と書いてあった。


――――――

アレス クラス:大盗賊 Lv11

体力20 魔力20 外殻10

力2 硬2 速2 魔2

スキル [突く]

――――――

New [突く/Lv1/強烈な一撃]

――――――


そう言えば魔物を自分で倒したの初めてだった…そう思いながら奇跡のような出来事に頬が緩み切ってしまう。『風の旅団』の3人と一緒に狩りをしていても、こんなもの見たことない。


試しに[突く]を使おうと念じると体の中から何かが抜かれた気がした後、腕が勝手に動き出し正拳突きのような動作をしてしまう。これが[突く]というスキルなのか…そしてさっきの感覚が魔力を失う感覚だと気づく。

能力板スキルボードを確認すると、魔力15(20)となっていた。消費魔力は5か。あと3回やったら気絶するだろう。これを使えばもしかしたら魔物が狩れるかも…淡い期待を胸が高鳴る。

たが回数には気を付けようとも思った。


それから、興奮しつつも初の獲物、角兎を短刀で解体して少量の肉と小石程度の魔石、頭の角を回収して素材袋に押し込んだ。

そしてイヌマキの採取はそっちのけで角兎を探し始める僕。


「いたー!」

角兎を見つけ、思ったより大きな声が出てしまう。少し恥ずかしい。


そして角兎が正面に来た時、昨日のように[突く]を使われる前に先制の[突く]を放つ。拳が前に突き出され、その拳の激痛と引き換えに角兎は後方に吹き飛ばされ、倒し切ることができたようだ。

これは…諸刃の剣では?


魔力は10に減り、体力も10減った。

もう一回やったら死ぬってば…


途中で少しだけ刈り取っていたトクサを拳に擦り付ける。ヒリヒリと痛いがこれでも少しは傷が治るらしいので試してみた。やはり軟膏にしてもらった方が良いようだ。

そしてまた解体。


そう言えば今度はあのシャボン玉のようなものは出なかったな。そんなことを思い出しながら木陰に座り休憩した。

警戒しつつ水筒の水を飲み30分。体力と魔力が11となった。


僕は30分で1程度回復するのだと思った。これでまた狩れる!と思ったのだが、ちょっと待てと思いとどまった。

外殻を確認すると、5になっていた。

そう言えばさっき見てないけど、体力が減ったという事は、外壁が全損したってことだよね?じゃああれで15?いや違うな。全損したのだから今の外壁5が回復したものだろう。

であればさっきの自爆で20減ったのか…


結局僕は、そのまま30分時間をつぶし、体力と魔力が12、外殻が10に回復したことを確認する。予想通り外殻は30分で5回復するらしい。そして今ならもう大丈夫だろうと3匹めの角兎を倒した時、2つ目のシャボン玉が出た。


期待を胸にシャボン玉をつん…


―――スキル[突く]がレベルアップしました。


「やった!」


僕はすぐに能力板スキルボードを出す。

ちゃんと[突く/Lv2/強烈な一撃]となっていた。説明は変わっていないけど確かにLv2となっている。早速試してみたいが空打ちはもったいない。でも角兎を狩るには少し回復させなくては…

結局その日は諦め、目の前の角兎を解体して帰った。


角兎を狩ってきたことにローラさんはびっくりしていたが、僕がレベルアップして能力値が伸び、強くなったのだと勘違いしているようだ。このまま勘違いしてもらおう。

僕のこの能力は多分珍しいものだと思うから…


また分からないことだらけだ。

今後が楽しみで仕方ない。


結局、肉と角、魔石を合わせて1匹銀貨1枚。3匹で銀貨3枚なので思ったより稼げはしないのだと思った。でも考えてみるとたった3匹で宿代になると思ったら十分だと感じた。


明日はもう少し多く狩ろう。

そう思って武器屋を覗く。何か安くて良い武器があればよいけど…


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角兎

モレノの森で出会ったお腹の方が白毛で上の方が水色毛のツートンでもふもふしてるが、その毛皮に価値は無い。可愛い顔して鋭い攻撃を繰り出す。

たまにその小さな口で指を食いちぎったりするので注意。

固有スキルは[突く] 消費魔力は5 アレスも素手だと拳を痛める諸刃の剣。

素材は少量の肉と角、小石ほどの魔石を合わせて1匹銀貨1枚。そのお肉はぷりぷりして美味しいので串焼きなどに使われているよ。

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