04 僕はなんて弱いんだ

初めての一人での採取依頼。


「本当に本当に気を付けてね?」

「はい!気を付けます!」

心配するローラさんをよそに、柄にもなく気合が入っているのを感じる。


「やっぱり、お手伝いとか街中の依頼に変えない?」

「だ、大丈夫ですよ、多分…」

心配そうなローラさんの顔を見ると不安にはなる。でもお手伝い系の依頼だと1度では宿屋の銀貨3枚にもならない。それにレベルを上げるチャンスも無いので一生それを続けることになる。


「じゃあ、行ってきます」

「本当に、本当に気を付けてね」


ローラさんの言葉を胸に、慎重に薬草の生えている東へと向かった。

そして僕は目的地であるクールビレの東に2km、モレノ迷宮のさらに東側に広がるモレノの森へ到着した、


かなりの緊張を感じながらも森へ入ってゆく。


まずイヌマキは高い木に成る実だから諦めよう。

足元にあるであろうトクサとヨウテイを探す。


「あっ!あった!」

トクサの特徴である細い茎がいっぱい生えている。


根を引っこ抜かない限り全部収集して良いとのことで、狭い範囲ながら群生しているトクサを、短剣で切り取り採取袋に入れる。これだけの作業でも能力値の低い僕は汗をかいてしまう。

少し休憩をして歩き回ると、途中でイヌマキの木を見つける。試しに石をぶつけてみるが、多少は落ちたもののとても売りに出せる量ではない。実をかじると甘酸っぱく多少の満足感は得られたので良しとしよう。


さらに歩くとヨウテイを見つける。

紫の小さな花が木の影に密集して生えているので、茎の根元を何度か左右に動かし根から引き抜いた。こちらはあまり採り過ぎてはいけないので半分程度を間引くように収穫する。


こんなもので良いかな?そう思って袋に入れ、少し休憩。水筒で水を飲むみ、まだ少し残してあったイヌマキの実を食べる。意外と美味しかった。2時間近くかかったけど、宿代と少しぐらいにはなるだろう。


これなら冒険者としてやっていける。

そう思った僕はすっかり油断してたんだ。


「ピギッ!」

突然聞こえた鳴き声に体が硬直する。


その鳴き声の方を向くと、1匹の角兎がこちらを威嚇するように見ている。


これは…

迎え撃とうと短刀を抜いて身構える。


「ギッ!」


角兎が鳴いた瞬間、僕は突っ込んでくるそれを避けられず胸に痛みを感じ、情けない悲鳴をあげ転がった。


「痛っ…」

幸い胸部は軽鎧に守られ怪我はしていないようだが、今の僕では角兎にすら勝てないことを悟った。


それでもこのまま死ぬわけにはいかないと、気力を振り絞って「えい!やー!あっちいけ!」と情けない声を上げながら短刀を振り回す。

何度か威嚇の鳴き声を出していたが、逃げてゆく角兎。


僕はその場にへたり込んだ。


「僕はなんて弱いんだ」

分かっていたことを、改めて実感する。


こうして、僕の初めての一人での薬草採取は、苦い経験として心に刻まれ、トボトボと重い足取りで街まで帰ってきた。


だけど採取できた。

これでどれぐらいになるのかな?


トクサは500g銀貨1枚、ヨウテイは根が1つ銅貨3枚。

夕食と宿代ぐらいなら何とかなるとは思う。少しづつ蓄えもできるかも?そう思っていた。


「おっと」

冒険者ギルドまでの大きな通りを歩いていると、足元にリンゴが転がってきた。


拾い上げ目の前を見ると、どうやら果物屋さんから転がってきたようだ。


「おい!ガキ!」

突然その店の主人と思われるおじさんに怒鳴られる。


「この泥棒野郎!」

「いや、違うよ。落ちてたから…」

「落ちたのはもう自分の物だってか?だからガキは嫌なんだ!おい、泥棒だ。衛兵呼んでくれ!」

「違うってば!ねえ、話を聞いてよ!」

僕が説明するのも聞かず、おじさんは後ろにいた売子に衛兵を呼ぶように命じていた。


何度か事情を説明するが、どうやらそれは聞き入れられないようだ。

そして数分後、がっちり鎧を着こんだ兵士が、僕に同行を求める。抵抗するなら力づくになると言いながら…


少し離れた衛兵の宿舎にもなっている建物まで連れてこられた僕は、当然ながら道すがら何度も説明をしてはいた。


「すまんがすでに届け出が出されている。なーに、一泊するぐらいだ。飯も出るし泊ってけ」

そう言われてしぶしぶ納得した。


牢は石畳で冷たかったが、厚手の筵が敷いてあり、それなりにではあったが快適に過ごせた。夕食も美味しかった。

備え付けのせんべい布団は少し硬くて匂っていたけど、疲れもあって眠ることができた。


翌朝、早い時間に起こされる。

朝食を食べた後、兵士につれられ「もう来るんじゃないぞ」と送り出された。朝食のご飯も普通に美味しかった。いっそもうここに住んで良いかなって思ってたところだったのに…なんてね。


半ば自暴自棄になりながらも冒険者ギルドにたどり着いた。

昨日の薬草を提出したかったのだ。


「アレスくん!」

僕が入ってすぐ、カウンターから走ってきたローラさんに抱きしめられた。


どうやら心配されてしまったようだ。

僕が経緯を話す。


「何処のお店?自分が何をやったか、私が後悔させてやるわ!」

「いや、もう大丈夫ですから、落ち着いて、なんなら宿代と食事代も浮いたって感じで…」

そう言ってなんとか怒りを鎮める僕。


その後、薬草を買い取ってもらうと、銀貨8枚と結構な金額になった。

初のボッチ依頼はこうして無事に完了することができた。


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ニック

紺色の服の上に胸だけを守る黒い軽鎧を愛用している盗賊クラスのお兄さん。『風の旅団』の斥候とアイテム管理が主な仕事。体は小さいがザック同様に頼れるお兄さん。


レイリア

魔法使いクラスで優しいお姉さん。黒髪ストレートにグラマラスな体を赤茶のローブで隠している。『風の旅団』では後衛で魔法攻撃担当。外での食事も担当している。


貨幣価値について

この世界では白金貨が1,000,000ロズ、金貨は10,000ロズ、銀貨は1,000ロズ、銅貨100ロズ。一応10ロズの小銅貨もあるがほとんど使われていない。

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